生命の起源 (259-260)

最終更新日:2002年05月10日 船戸和弥のホームページ

哲学事典(森 宏一編集、青木書店 1981増補版)から引用:括弧内は参照頁。

 地球上の生物がそのようにして生じたかの問題。古くは、生物は万物とともに神によって造られたとする<創造説>(天変地異説はその変形)とともに、生物が、泥、腐水、腐肉などから生じるとする<偶発説>(自然発生説ともいう)があった。偶発説はエンゲルスも指摘しているように、種を普遍と見た時代に属するものであるが、進化論とは独立にレーディ(F. Redi, 1626~97,イタリアの医師。見解発表、1668)からパストゥール(L. Pateur, 1822~95フランスの化学者、微生物の創始者。見解発表、1860)にいたる実験研究によって否定された。ダーウィンおよびその同時代の学者の多くは、生命の起源の問題を化学の課題とはみなさなかった、進化論はその究明を生物学に要求した。リヒター(H. Richter, ドイツの生物学者、見解発表、 1865)からアーレニウム(S.A. Arrhenius, 1859~1927、スエーデンの物理化学者。見解発表。1907)にいたる一連の学者は、生命は宇宙に広く存在し、地球には他の天体から飛来したという説を唱えたが、現在では否定されており、生物は地球の歴史のある時期に無生物から生じたとの考えが一般に認められるにいたっている。そのはじめの見解では、最初に生じた生物は、硝化バクテリアのような、栄養源に有機物を必要とせず、無機物だけを摂取して生活する微細な生物であったとする考えが支配的であった。ところが1923年以来A.И. オバーリン(Oпaин, 1894~、現代ソ連の生物学)はそれとは正反対の、生物は有機物を栄養とするものから始まったとの理論を展開した。まず炭化水素を出発点として原始的な有機物が生じ、しだいに複雑化して、原始海洋中にタンパク質様物質や類似の高分子化合物の溶液ができ、これらの化合物集まって、境界面をもったコロイド性の滴(コアセウベート)をつくって分離した。滴と外部の有機物の溶液とのあいだに物質代謝の作用が生まれ、適応と自然淘汰による滴の進化が始まり、原始的な有機体が形成された。光合成をする無期栄養の植物はずっと後に現われ、それを前提として酵素呼吸をする有機栄養の動物が現れた(《生命の起源》1936)。バナール(J.D. Bernal, 1901~71。現代イギリスの生物物理学。見解発表、1951)は、出発点の物質と場所その他について異説を出しているが、生命を第一次有機物の非常に長い進化の歴史の所産として生じたとする基本的な点では一致している。またオバーリンは、デボキシリボ核酸(DNA)など高度に複雑な有機物は、それらが部品となって生物が生まれたのではなくて、原始有機体の進化の過程でそれらが創り出されたのだとしている。生命の起源の問題は生命の本質の問題と不可分である。→生命