弁証法的および史的唯物論 (dialectical and historical materialism)

最終更新日:2002年05月09日 船戸和弥のホームページ

哲学事典(森 宏一編集、青木書店 1981増補版)(p434-435)から引用

 マルクスレーニン主義の哲学、この理論の基本的構成部分の一つであり、マルクス-レーニン主義者によって発展させられてきた。それは、19世紀の科学の進歩と労働運動の発展にももとづいており、哲学における革命をもたらした。そのわけは、それが哲学を、はじめて真の科学としてなりたたせ、その研究対象を明らかにし(→哲学)、かつ自然と社会ならびに人間の思想を通じて唯物論の見地をつらぬき、哲学を世界の解釈の理論としてではなく、それを変革する理論と実践の立場を主張するからである。

1.弁証法的唯物論。これは、哲学における基本的な成果を受け継いで現れた。その一つは唯物論の伝統であり、唯物論は哲学に科学性を保証する基礎である。他は、科学と人間の実践活動から明らかにされてきた世界の一般法則としての弁証法である。唯物論は古くから社会の進歩的階級の見解としてあらわれ、人間にとって認識を前進させるのに役立ってきたが、マルクス主義以前にはそれはまだ形而上学的で機械的な制限を脱せず、またこの見地を自然および社会に一貫してうちたてるにはいたらず、社会については観念論におちいっていた。弁証法もまた、古くから哲学思想にあらわれたが、これをしめしたのは主に観念論者の側にあった。マルクス主義哲学は、唯物論の立場にたって弁証法を明らかにし、形而上学的、機械的な制約を抜けいで、自然と社会とをすべて唯物論をもってとらえるにいたった。これらは、マルクス主義哲学、すなわち弁証法的唯物論にとって基本的特徴である。それは世界の根源を物質とみるばかりでなく、物質はみずから運動・変化するという立場にたって、客観的物質世界の弁証法的発展によって、無生物から生物へ、さらに人間の意識の成立へとたどり、観念論がその拠とする主張すなわち、意識・精神を物質世界から切りはなして独自の存在だとする主張をうちくだく。したがって、人間に認識とは客観的物質世界の反映によってなりたち、反映としての認識には実践がその基礎になっており、これによって反映の発展があることをしめす。ここに、従来の認識の理解がただ観想的立場だけでなされていたのに対して大きな画期的前進をおこない、このことによって観念論に大きな打撃をあたえた。<理論を神秘主義にさそいこむあらゆる神秘は、その合理的解決を人間の実践とこの実践を理解することのうちに見いだす>とマルクスがいっているが(《フォイエルバッハにかんするテーゼ》)、これはまさしく弁証法的唯物論が従来の唯物論および観念論一般と、自己を区別する重要な特徴である。実践を前面にとりあげることで、この哲学は、認識の基礎を明らかにするともに、自然と社会とにたいする変革の立場にたつこと、したがって資本主義にたいする労働者階級の歴史的課題たる革命運動にとって史的唯物論とあいまって、思想的武器となり、その政党にとって活動方針を立てる理論的拠りどころをあたえる。同時に、この唯物論は世界と人間の思考の不断の発展という見地にたつので、創造的性格をそれの固有の性質とするものである。 

2.史的唯物論。マルクス主義以前の唯物論は、社会については人間の観念の重要な役割をみとめるところから、歴史は観念論の力によって動かされるとみ、その観念がどのようにしてつくられ生じてくるかを明らかにせず、したがって観念論の立場におちいるほかはなかった。そこから、社会における天才的人物が社会にとっては重要な歴史的役割をするかのように考え、本来歴史を成立させている人民大衆の働きを無視する見解になっていた。史的唯物論は、社会発展についての一般的法則と、人びとがその歴史的活動によって発展を実現していく形態を探求しそれをしめすだす任務を自己に課する。そこからえられるこの唯物論の理論は、まず第一に人間がその生存をなりたたえる基本である生活物質の生産(→生産)を基底におき、そこに生じる生産関係から、社会のさまざまな人間関係を説明し、土台と上部構造という関係を見いだして、人間がいだくにいたる観念がどこから生じ、どう規定されるのか、したがって人間があれこれの観念をいだいて行動する根源を、生産関係によるものとし、たんに人間は勝手気ままになんらかの観念をつくりだすのではないのを明らかにした。しかしまた、人間の観念という産物、政治という方策も、すべてこれらは土台(生産関係)にたいしては上部構造であるが、それらが土台に規定されて生じるというだけではなく、これら上部構造が成立すると、これは逆に土台に作用を及ぼすことをも説き、ここに弁証法的な相互関係が働くのをみる。社会が変化し発展していく点については、その根本になるのは、上部構造を規定する生産関係と、生産関係を歴史的に特徴づける生産力との相互関係によるのであり、不断に発展していく生産力と一定の形式をとってできている生産関係とのあいだの弁証法的関係(対立物の統一と闘争)にもとづいて起こるものであり、同時にこの相互関係を反映する上部構造における対立と闘争がそれに加わる。ここにしめされる社会の基本とそこから生まれるでる社会の諸側面、、その中に位置して生活し活動する人間は、経済的社会構成体の相違にしたがってそれぞれに特有な法則と活動の形態がとられるものである。史的唯物論が以上のように、唯物論の立場から明瞭にした社会とその発展とにかんする理論によって、自然科学とならぶ社会科学が成立する基礎があたえられた。史的唯物論は社会諸科学にとって、その一般法則をしめすものであり、また社会における活動にとっては実践の指針をあたえる。→弁証法、唯物論