抽象・抽象的abstraction, abstract (309)

最終更新日: 2002年05月09日 船戸和弥のホームページ

哲学事典(森 宏一編集、青木書店 1981増補版)から引用:括弧内は参照頁。

 事物のさまざまな側面・性質のなかから、ある特定の側面・性質をぬきだしてとらえる思考の働きをいう。これはその反面で、ぬきだされたもの以外の諸側面・諸性質をきりすてることであって、この働きのほうからいうと、捨象といわれる。抽象が事物の普遍的・必然的・本質的側面を反映する場合、それは正しい科学的抽象であり反対に非本質的な諸側面をぬきだし、それらの事物の真相とするならば、その抽象はあやまった抽象となる。科学的抽象は、感覚や知覚による対象の具体的な反映にもとづきながら、より不覚本質的な内容をとらえる働きである。たとえば、光の速度はこれを知覚しえないが、科学的抽象によって初めてとらえることができる。このように、科学的抽象は認識をすすめ、対象の奥にひそんでいるものを明らかにするための重要な役割をする。一方それは、具体的な客観的対象から、それがもっている多様性をとりのける。そこで、感性的反映が抽象の現象形態をとらえるのにたいして、抽象的反映は本質的なものをとらえるが、対象のある側面の反映であり、そのかぎりでは一面的な認識にとどまる。そのために、ここの抽象による認識をふたたび具体的なものと結びつけ全面的な認識するには、あまたの規定の総和として、すべての本質的な諸側面・諸関係を総合しなければならない。これは、思考における対象の具体的な再現である。認識はこのようにして、感性的なものから、思考による抽象的なものへ、さらに全面的反映をおこなっていく。
 抽象的とは具体的にたいして、事物を諸関連から切りはなして、その一面をとらえると、その一面をとらえること、そしてこれにとどまっていることをさしていう。