デカルトDescartes, Rene 1596~1650

最終更新日:2002年05月09日 船戸和弥のホームページ

哲学事典(森 宏一編集、青木書店 1981増補版)(p318-319)から引用

 フランスの哲学者、数学者、物理学者、生理学者。 <近世哲学の父>とよばれ、合理主義哲学に道をひらいた。また解析幾何学の創始者。トゥレーヌ州の貴族出身。スコラ学の教育をうけ、軍隊勤務をしたのち1629年以後20年間、当時ヨーロッパ最初の資本主義国オランダに定住して自然科学と哲学の研究、その著述にしたがった。かれは、ほぼ同時代のイギリスのフランシス・ベーコンと同様に、知識の究極の目的は人間が自然を支配し、技術を開発し、原因―結果の関連をとらえ、人間本質を改善することにあるとした。このために、1)かれの方法論では、スコラ学的思弁によるのではなく、純粋直接な精神の明証つまり<直観>にあたえられる<明晰判明>な観念を確実な出発点とし、数学的方法をモデルにする分析と総合をへて、複雑なものの確実な認識にたっすると主張した。まずこれがための礎石として数学的心理をもふくめて、いっさいの知識を疑い、その結果<疑う我>の存在は絶対に疑いえないという自覚から<我思う、ゆえに我あり(コギト・エルゴ・スム)>を直観的に確実で明晰判明な第一の真理とし、探究の出発点とした。すなわち思考する理性をもとにし演繹的に知識を組み立てて行く合理主義をその立場にした。2)その形而上学。この<我>、疑い思考する我の不完全性、有限性という意識の背後には、完全で無限なものの観念、神の観念がひかえており、このことから実体としての神の存在が導きだされる。それとともに、精神的実体と物質的実体も明晰判明な観念であり、神とともに人間の脳裡に存する<生得観念>だとされて、その存在が承認される。こうして明晰判明なことが真理の基準とされて、この真なる認識があたえるものの存在を承認し、基本的なものとして神、精神的実体、および物質的実体などを生得観念とといて立論する。ここから、かれの二元論が成立する。3)その物理学、物質的実体たる物体の属性として明晰判明に認められるのは<拡がり(extension、延長ともいう)>と空間における<運動>であり、ここから物体間の作用と反作用をもとにして説かれる機械論的自然観が展開される。かれの生理学も唯物論的にいろどられているが、非物質たる精神との関係で深い矛盾におちいり、納得のゆく答えがえられなかった。この難問に関しては,その後継者のうちから機械論原因論が展開されるようになる。デカルトは神を無限な実体とし、そのもとに思考を属性とする精神と、拡がりを属性とする物体という相互に没交渉な二つの有限な実体をたてる、物心の二元論の哲学をしめしたが、その出発点に<我>をおき、思考する個人を根底としてたのは近代的な個人の自覚をあらわしたものということができる。しかし理性による合理的な明証性を拠りどころにするその演繹的方法は、F.ベーコンの実験的帰納法を基礎とする経験論に対立して,観念論をみちびきだすことになった。他方、かれの物理学、生理学にみられる唯物論は、18世紀フランス唯物論を生む要素になった。かれの哲学がその立場にあいまいさをもったのは、社会的にはフランスにおける封建制から資本主義への交替の未成熟を反映した思想上の所産と見ることができる。[主著]Discours de la methode, 1637(落合訳、方法序説); Meditationes de prima philosophia, 1641(三木訳、省察);Principia philosophiae(桂訳、哲学原理);Passions de I'ame(伊吹訳、情念論)