本文へスキップ

脳血管内治療に用いる各種デバイス

頚部内頚動脈狭窄症と頚動脈ステント留置術

最終更新日: 14/05/01

頚部内頚動脈狭窄症と頚動脈ステント留置術

頸部内頸動脈狭窄とその治療方法について

1)頸部内頸動脈狭窄とは

 頸部内頸動脈狭窄とは、脳へ血液を送る主要な血管である頚動脈が動脈硬化症、まれには炎症や外傷などによって狭くなる病気です。狭窄によって血液の流れが妨げられると、脳への酸素や栄養分の供給ができなくなったり、血流の乱れによってできた血のかたまり(血栓)が血管につまって様々な症状を生じます。症状は一時的なこと(一過性虚血発作(TIA))もあり、後遺症を残すこと(脳梗塞)もあります。脳梗塞を起こすと、その部位に応じた様々な神経症状(運動麻痺、知覚障害、言語障害、視機能障害、高次脳機能障害など)を呈し、重症の場合には寝たきりや植物状態、さらには生命の危険を伴うこともあります。また、無症状であっても狭窄の度合いが強いと、数年以内に一定の割合で症状が生じることが知られています。治療方法は、内科的治療と外科的治療があります。内科的治療は、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの動脈硬化増強因子のコントロールや狭窄部に起こる血栓症を予防するための薬物治療です。外科的治療は、狭窄を解除して血液の流れを改善する血行再建という治療で、直達切開手術と血管内治療があります。直達切開手術は、狭い部分の血管を切開し狭窄の原因となっているアテローム動脈硬化(コレステロールや脂肪のかたまりで、粥腫やプラークと呼ばれる)を除去する“頚動脈内膜剥離術”や、狭い部分以外にバイパスとなる血行路をもうける“血管吻合術”があります。一方、血管内治療は、単純にバルーンカテーテルで狭窄部を広げる経皮的血管形成術や、以下に説明する“頚動脈ステント”を併用する方法があります。これらの外科的治療は、すべての病変部位で可能なわけではなく、狭窄の部位や程度、患者さんの全身状態や合併する病気などによって、どちらも可能な場合もあれば、いずれか一方しかできなかったり、どちらも可能なもののその安全性や有効性が異なる場合があります。狭窄が軽度であると内科的治療のみで様子を見ることができる場合がありますが、狭窄の度合いが強い場合には外科的治療を行うことが望ましいと考えられています。

2)頚動脈ステント留置術について

 頚動脈ステント留置術は、血管の内腔から狭窄部に金属のメッシュでできた円筒状の内張り(頚動脈ステント)を入れて狭い血管を広げます。局所麻酔あるいは全身麻酔で、通常、足の付け根から直径2~3mm程度の管(カテーテル)を血管内へ入れ、これを狭窄のある血管の近位へ進めます(シースイントロデューサーシースレスガイディングガイディングカテーテル、バルーン付きガイディングカテーテル)。肘の血管からカテーテルを入れることもあります。これらのカテーテルの中を通して、まずバルーンカテーテル(PTAバルーンカテーテル)で狭窄部位を拡張します(pre PTA)。次に狭窄部へステント(頚動脈ステント)を誘導して留置します。頚動脈用のステントは留置すると自分で自然に拡張する能力がある自己拡張型ステントですが、それでも拡張が不十分あるいは血管との密着性が不十分である部分に対してさらにバルーンカテーテル(PTAバルーンカテーテル)で狭窄部位を拡張します(post PTA)。バルーンで拡張を行ったり、ステントを留置する際には、狭窄血管にたまっているdebrisが血管内に遊離して脳へ飛んでゆきます。風船やフィルターといったプロテクションデバイス(EPD)というデバイスを用いて、debrisが脳の血管に詰まらないようにします。管の蛇行が著しくカテーテルが目的部位まで誘導できなかったり、極度に血管が細くて狭い箇所を通過させることができないとステント治療を断念せざるを得ない場合があります。

3)本治療法の効果と危険性

 本治療法は、切開せずに血行再建が行えるのが大きな利点です。直達切開術が困難あるいは危険性が高い場合に適応となります。直達切開術に伴う、創部感染、創治癒遅延、創痛、創による醜状、手術部位周囲の神経障害を来す心配がありません。一方、直達切開手術に合併症があるのと同様に、以下のような合併症が起こる可能性がありますので十分に理解してください。

合併症 ①脳梗塞

 まれに、カテーテル壁などに生じた血栓やアテローム動脈硬化(コレステロールや脂肪のかたまりで、粥腫やプラークと呼ばれる)のかけら(debris)が脳の血管に詰まって脳梗塞が起きます。これを予防するために事前の薬物治療や風船あるいはフィルターのついたワイヤープロテクションデバイス(EPD)を使用して、血栓ができづらくしたり動脈硬化のかけら(debris)が飛ばないように工夫を行います。脳梗塞がおこると、梗塞になった部位に応じた様々な神経症状(運動麻痺、知覚障害、言語障害、視機能障害、高次脳機能障害など)が出現します。

②脳出血

 狭窄部位が拡張され脳に急に多量の血液が流れることによって脳出血を来すことが稀にあります。脳出血をきたすと、その部位に応じた症状を呈します。

③血管解離

 血管の拡張に伴う血管壁の変形などのため血管の壁が裂ける(血管解離)ことがあります。血管解離の多くは無症候性ですが、出血や血栓形成による脳梗塞をきたす可能性があります。

④徐脈、低血圧

 頚動脈分岐部にある血圧の受容器が頚動脈ステントやバルーンで圧迫されると血管反射が起こって一時的な徐脈や低血圧が生じることがあります。数日間昇圧剤の持続投与を要したり、一時的に心臓の拍動を維持する処置(心臓ぺーシング、ペースメーカー)を要することがあります。

⑤その他

 足の付け根の血管穿刺部は、治療が終わると圧迫止血されますが、あとから出血することがあります。血腫形成による痛み、一時的な醜状、貧血や血圧低下、動脈瘤形成(手術が必要なこともある)などが起こることがあります。また、造影剤によるアレルギー、ショック、腎機能障害、神経障害、放射線による一過性の脱毛などがまれに起こります。

⑥再狭窄

 留置したステントの内側や近傍の血管内膜の増殖が起こって再び血管が狭くなる(再狭窄)ことがあります。再狭窄が起こっても神経症状の出現はまれですが、狭窄部に対する再治療(PTAバルーンカテーテルによる再拡張、頚動脈ステントの追加留置手術、直達切開)など要することがあります。

4)手術後の経過

 手術後12時間から48時間は集中治療室(ICU, HCU, SCU)にて厳重な観察が必要です。ヘパリンという血液を固まりにくくする薬を点滴や血栓形成を抑制する薬を投与することがあります。特に問題がなければ、手術の翌日には自室へ帰ります。翌日は車いす、翌々日から歩行が開始となります。術後数日で退院となります。

平成  年  月  日

東京歯科大学市川総合病院 脳神経外科

医師               _

バナースペース

脳血管治療学習会

東京歯科大学市川総合病院
脳神経外科 片山正輝