Rauber Kopsch Band2. 75

III. 視覚器Organon visus, Sehorgan

 視覚器すなわちOculus, Augeは次のものからできている.

1. 光学的な装置としての眼球Bulbus oculi, Augapfelと,その柄をなす視神経Fasciculus opticus, Augenstiel(視神経Sehnerv).

2. 眼球を保護するもの,すなわち眼球の被い(結膜など)や涙器.

3. 眼球の運動装置としての6つの筋

I. 眼球 Bulbus oculi, Augapfel

 眼球は球に近いかたちで,内容すなわち核と,これを包む被膜とからなる.これが視神経によって脳とつながっている.

 A. 眼球の被膜すなわち壁は,前方の小部分が完全に透明であり,後方の大部分が不透明であって,タマネギの皮のように重なりあった次の3枚の膜がその壁を構成している:

1. 眼球外膜Tunica externa oculiは前方の透明な部分が角膜Cornea, Hornhaut,後方の不透明な部分が強膜Sclera, Lederhautである.

2. 眼球中膜Tunica media oculiは次の3つの部分からなる,後方の最も大きい部分は脈絡膜Chorioides, Aderhautとよばれ,前方の部分が虹彩Iris, Regenbogenhautで,そのあいだのところが毛様体Corpus ciliare, Ciliarkörperである.

3. 眼球内膜Tunica interna oculiは色素上皮層Stratum pigmenti, Pigment-Epithelと網膜Retina,Netzhantからなる.前者は視神経の進入するところから虹彩の瞳孔縁までひろがっており,網膜・毛様体・虹彩の色素上皮層 Stratum pigmenti retinae, corporis ciliaris, iridisとよばれる部分からなる.

 網膜には視部Pars opticaと盲部Pars caecaとが区別される.

B. 眼球の核すなわち内容水晶体Lens crystallina, Kristallinseと水様液Humor aqueus, Kammerwasser(眼房水)と硝子体Corpus vitreum, Glaskörperである.

眼球の形と直径(図605, 606)

 眼球の形が球に近いことはすでに述べた.完全な球形からのずれは,まず第1に角膜の曲率半径(7.75mm)が強膜のそれ(12.70mm)より小さいことによっている.小さい前部すなわち角膜の部分は,大きい後部とのあいだを強膜溝Sulcus scleraeという輪状の浅い溝で区切られている.前部はほぼ正確に球面の一部とみることができるが(後に詳述する),後部はむしろ鉛直方向に少し圧平された楕円体に相当している.あるいは,「角膜と強膜とはいっしょになって1つの中空の球をなし,その球には強膜溝に相当して浅いくびれがある」ということもできる.この球には方位を知る便宜のために,地球の場合と同様に前極Polus anterior, vorderer Augenpolと後極Polus posterior, hinterer Augenpolと赤道Aequator, Aquatorが区別され,さらに極から極へ走る経線Meridiani, Meridianlinienが想定される.そのうち水平および鉛直の経線がとくに重要である.

S. 583

 前極は角膜の前面の中央にあり,後極は眼球の後部の中央にある.両極を結ぶ矢状方向の1線は外眼球軸Axis oculi externus, [äußere]Augenachse とよばれる.これに対して内眼球軸Axis oculi internus, innere Augenachseというのは,角膜の後面の中央から,網膜の内面で後極に対応する点にいたる直線である.

 外眼球軸は平均24.27mm,内眼球軸は21.74 mmである.また横径(左右径)は24.32mm,鉛直径(上下径)は23.60 mmである.(日本人では越智貞見(日眼会誌,21巻3号,1917)によれば外眼球軸24.22mm(男24.37,女23.83),横径23.81mm,鉛直径23.79mm.)

 視軸Axis opticus, optische Augenachse は上に述べた2つの眼球軸と一致する.これに対して視線Linea visus, Sehlinieはこれらの軸と或る角度をなすもので,眼を光学レンズに還元して考えるさいの節点を通り,中心窩を通る(図606).

 眼球の内側半は外側半より小さい.さらに非対称なのは眼球と視神経との付きかたである.すなわち両者は眼球の後極ではなく,その3~4mm内側で結合しているのである.視神経の軸は眼球軸と20.の角度で交わっている.

[図605]右の眼球の断面(×5)

S. 584

[図606]右の眼の水平断と眼軸(×4)

[図607]角膜の横断(×100)

S. 585

 角膜頂(角膜の前面の中央)から水晶体の前面までの距離は4mmである.そのうち3mmは前眼房の奥ゆきに相当する.水晶体の前後軸も4mmである.水晶体から網膜までの距離は14.5mmで,後極における3つの眼球膜の厚さは合計2mmである.--両眼間の距離は56~61mmである.(日本人の瞳孔間距離は足利によれば58~61mm,小松(日眼会誌47,1943)によれば成人男子63,女子61mmである.)--眼球の重さは6.3から8grのあいだであって,体積は6 cm3である.比重は1022~1030である.(日本人の正常な眼球の重さは5.6~9.3gr,平均男7.52gr,女7.17 gr.容積は男7.31 cm3 ・女7・05 cm3・比重は1.026である.(越智貞見,目眼会誌21巻3号,1917))新生児ではL. Weissの計測によると平均2290mgで,体積は2189mm3であった.Sappeyによれば女の眼球の直径は男にくらべてやや小さいというが,この差異ははなはだ不顕著であるか,あるいは全く差異がないのである.なかでも角膜の弯曲および大きさの点は男女両性間で同じか,あるいはほとんど同じである.新生児の眼球軸は17.5mmである.子供の眼は生後の第1年で少なからず発育する.その後は思春期にいたるまで,ごくわずかの増加しかない,そして思春期から速かに最終的な大きさに達する.角膜はすでに生後第3年には終局的の大きさに達している.

1. 眼球外膜Tunica externa oculi

 すでに述べたように角膜と強膜からなる.

a) 角膜Cornea, Hornhaut(図605, 607611)

 角膜は眼球外膜のおよそ1/5をなすもので,前面は凸で外面Facies externaとよばれ,後面は凹で内面Facies internaとよばれる.前面の中央部は角膜頂Vertex corneae, Hornhautscheitelである.

 角膜の辺縁は角膜縁Limbus corneaeとよばれ,ここで角膜の透明な組織が白い強膜に直接移行する.強膜はその外層がいくらか角膜の上にかぶさつており,ときには強膜の内層も伸びだしていることがある,このような場合には強膜にSklerafalz(Falzは板の縁のはめこみ溝)という溝が生じて,腕時計のガラスをおさえる蓋の溝のように,角膜をはめこんでいる.

 強膜の外層はとくに上方と下方で伸びだしているので,角膜と強膜の境界線は横におかれた楕円の形となり,その水平径は11.9mm,鉛直径は11 mmである(HelmholtzとKnapp).(越智によれば日本人では水平径11.52mm,鉛直径10.54 mmである.)同じ著者たちによれば角膜の外面の弯曲も楕円体面である.水平の経線は鉛直の経線よりも弯曲がすこし弱くなっている(Donders).また後面で,は前面より弯曲がいくらか強い.それで角膜の中央では厚さが0.8mmであるのに角膜縁では1.1mmになっている.角膜の重さは180 mgである.(Huschke).

 角膜にば次の層がある(図607):a)角膜上皮Epithelium corneae, b)外境界板Lamina limitans externa, c)角膜固有質Substantia propria corneae, d)内境界板Lamina limitans interna, e)前眼房内皮Endothelium camerae anterlorls.

 a)角膜上皮Hornhautepithelは重層扁平上皮で,5層の細胞からなり(H. Virchow),全体の厚さは50~l00µである(図608).

 Virchowは角膜の全表面にわたって,すなわち角膜縁の上皮に移行するところまで,上皮の厚さが同じであることを見た.

 最深層は円柱状の細胞で,その底は線条のある縁(足板)をもち,小さいギザギザがついていて,これが外境界膜にかみあっている(Langerhans).円柱細胞の上には多角形の小さい有棘細胞からなる2層がある.表面の2層は圧平された細胞で,角化することがなくて,核を保っている(図608, 609).上皮細胞間迷路の中にはしばしば少数の遊走細胞が周囲に適応した形をして存在している.最下細胞層では有糸分裂が規則正しく起り,表面から剥離してゆく上皮の再生はこの層から行われる.(日本人では33例中15例において角膜上皮細胞内に微細な色素顆粒がみとめられ,その多くは基底層に,まれには表層の細胞にもある.(松岡秀夫,日眼会誌36巻10号,1932))

b)外境界膜äußere Grenzhaut(ボウマン膜Bowmansche Haut)は厚さ20µのガラスのように透明な層で,角膜縁にむかつて急に消失している.過マンガン酸カリによって,この層が原線維からできていることがしめされるが,これは弾性線維ではない.H. Virchowによれば,この層は角膜固有質と同一物質でできていることが疑いない.角膜上皮にいたる神経はこの層を通りぬける.

c)角膜固有質Substantia propria(図607)は原線維性の基質と,その中にある細胞とからなる.

S. 586

膠原原線維が接合質Kittsubstanzによって厚さ8~10µの扁平な層板Lamellenにまとめられ,それが50~65枚かさなりあっている.

 それぞれの層板が角膜の全域を被っているのではなくて,いろいろな方向にたがいに交叉する数多くの層板が隣りあっているのである.さらにまた相異なる層の層板はたがいに完全に分れているのでなくて,非常に鋭い角度で交織しあっている.原線維束はそれぞれの層板のなかで,角膜の表面に平行する面上で,あらゆる方向に走っている.

 角膜の前面に近い所では,原線維束が深層のものより繊細になっており,深層からの原線維群によって,斜めの方向,あるいはかなりしばしばほとんど垂直の方向に貫かれている.これがボウマンの支持線維Bowmansche Stützfasern とよばれるもので外境界膜のところで消失している.

 交織する原線維の層板のあいだには,豊富な液細管系Saftkanalsystemが発達している.この体液路系がふくむものは透明な液体と2種の細胞--角膜細胞Hornhautxellen(結合組織の固定細胞に相当する,図610)と遊走細胞Wanderzellen(リンパ球)である.

 角膜細胞は液腔の一方の壁に密接して存在するので,内皮細胞の状態を呈している.比較的大きい液間隙では2~3個の扁平な細胞が,辺縁を相接して並んでいることが稀でない.酸やその他の薬品で晒すことによって,一方のがわに細胞のついた嚢を遊離させることもできる.これは角膜小体Hornhautkörperchenとよばれ,弾性をもった液腔壁の層と,その1側に付いている角膜細胞とからなる.遊走細胞は固有質のなかに必ず存在するが,その数は不定である.

d)内境界板innere Grenzhaut(デスメ膜Descementsche Haut(図607)は新鮮な状態では無構造にみえ,特別な構造を示さない非常にうすい層板の集りであって,この層板は(たとえば10%NaClで)分離することができる.内境界板は中央でもっとも薄く,辺縁にむかつて厚くなり,機能的には毛様体筋の中心腱Zentralsehneとみなされる.

 内境界膜はケルカリや酸や熱湯に対して強い抵抗力をもっており,外境界膜よりも容易に固有質から剥離できる.そしてはがれると前方ヘクルクルと巻いてしまう.

e)前眼房の内皮Endothelium camerae anterioris(図607)は,接合質と細胞間橋によって結合されている扁平な結合組織細胞の単一の層からなる.核はたいてい中央にあり,球形あるいは楕円体の形で,これを囲む細胞体の部分とともに前眼房に突出している.

 角膜の血管とリンパ管:角膜は血管を欠くが,その辺縁の小部分だけは例外で,ここには上皮と固有質のあいだに1層の疎性結合組織がはいりこんでいて,そのなかに血管が毛細血管のワナの形でふくまれる.このワナを角膜のRandschlingennetz(辺縁係蹄網)という.まれには少数の血管係蹄が角膜の辺縁部で固有質のなかまではいりこんでいる.

[図608]ヒトの角膜上皮の横断(×500)

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 角膜のリンパ路としてはまず層板間に広くゆきわたっている液細管Saftkanälchenである.そして角膜内の多数の神経のまわりを鞘状につつむ隙間がこの液細管とつながる.角膜からのリンパは結膜のリンパ管につづいている.後者が角膜のリンパの主要な流出路をなしている.

 角膜の神経は毛様体神経Nn. ciliaresから来ている.この神経の角膜枝は,強膜の辺縁部でシュレム管より外方において,角膜縁をとりまく輪状の神経叢をつくっている.

 この神経叢から細い線維東が結膜に侵入し,ここで結膜に固有の神経と結合してから,角膜の前面近くの層に達する.しかし神経線維束の大部分は直接に角膜固有質の中に放射状の方向に入り,ここで角膜の基礎神経叢Grundplexusをつくる.そしてこの神経叢の存在する範囲は前方は外境界膜にまで達するが,後方は角膜の厚さの前から3/4のところより後にはない.角膜縁からはいって来る,リンパ鞘に包まれた神経線維束は非常に数が多くて,約60本に達する.そのうち最も細いものはほんの2, 3本,最も太いものがせいぜい12本の神経線維をふくんでいるにすぎない.これらの線維は角膜にはいる前に,すでに髄鞘を失っている.軸索は何度も枝分れし,遂には微細な原線維に分れる.神経叢の結び目のところに結合組織細胞の核がよりそっている.基礎神経叢(図611)の前方部から,何本もの原線維からなる神経線維が多数でて,前境界膜を貫通する.そして前境界膜と上皮とのあいだに,もう1つの神経叢が形成される.これは上皮下神経叢subepithelialer Plexusとよばれるものであるが,Boeke(Z. mikr.-anat. Forsch., 2. Bd.,1925)によれば “basales Geflecht”(基底神経叢)と呼ぶ方がよいという.その理由はこの神経叢は基底面の近くではあるが,最下層の上皮細胞の細胞質内にあるからである.この神経叢から多数の細い線維がでて上皮細胞間を縫つてはいりこんでゆき,そこで上皮細胞間神経叢interepithelialer plexusをつくっている.しかし本当の神経終末は上皮細胞の内部にある.すなわちごく細い神経原線維が上皮細胞の内部にまで侵入し,そこで微細な終末網をなして終わっている(第I巻図60).Boekeによれば角膜の上皮細胞のほとんどすべてが神経支配をうけている.また基礎神経叢のすべての線維が上皮に達するわけではなく,かなり多くの部分が固有質に分布して,そこで自由終末をなしている.固有質における終末は,皮膚の真皮における終末に相当するのである.Boekeによると,やはり微細な神経原線維が角膜細胞の原形質と結合しているという.しかし上皮細胞内におけるような終末装置は記載されていない.

b) 強膜Sclera, Sklera(図605)

 強膜は眼球外膜の約415をしめ,前方は角膜に移行し,眼球の後極より内側のところで視神経の外鞘につづく.比較的厚くできている場合は白色であるが,子供の強膜のように薄い場合には青味がかつて見え,また年をとると脂肪の粒子が沈着するために黄色を帯びてくる.視神経の近くでは1~2mmの厚さであるが,ここから前方へむかつて厚さを減じ,赤道部では0.4~0.5mmとなる.最も薄いのは外眼筋の腱が接している場所で,0.3mmしかない.しかし腱が付着するところはまた少し厚くなっていて0.6mmある.強膜は多数の開口で貫かれている.まず眼球後極の近くで視神経が侵入しているが,ここでは,視神経の線維だけがみたすような孔がポカリと1つあいているのではなくて,多数の結合線維束がこの口を仕切って強膜篩状野Area cribriformis scleraeというフルイ様の板を成し,このフルイの目を神経線維の束が通りぬけているのである(図626).

 さらに視神経の侵入部のまわりには,毛様体神経Nervi ciliaresや脈絡膜動脈と虹彩動脈Aa. chorioideae et iridisが通るための小さい口がたくさん開いている.また赤道のすぐうしろには渦静脈Venae vorticosaeが通るための,かなり太い管が4つ(あるいは5つ)あり,強膜の前縁近くには毛様体小枝Ramuli ciliaresのための開口がある.

[図609]角膜の上皮細胞を分離したもの×700

S. 588

[図610]角膜の固定結合組織細胞 金染色をほどこした角膜小体

[図611]家兎の角膜の基礎神経叢 金染色

 組織学的にみると強膜は線維性結合組織の平たい束が,主として経線方向と赤道方向に走り,たがいに交わり合ってできている.眼球に付着する諸直筋の腱は強膜内では経線方向の線維束に移行し,上下の斜筋の腱は赤道方向のものに移行する.そして何れも同時に深層の方に入ってゆく.強膜の線維束には,とくにその内方の層では弾性線維がたくさんまじっている.線維束のあいだの隙間には細い液細管があって,これは角膜の液細管とつながっている.遊走細胞Wanderzellenのほかに少数の色素細胞Pigmentzellenがあり,これは脈絡膜と接する層でいっそう豊富になる.(ここでも色素は有色人種に多量みとめられる.そして白人では黄色ないし褐色を帯びるが,日本人では褐色ないし黒褐色を呈する.(小川鼎三))強膜の内面と脈絡膜の外面とのあいだには,結合組織板で貫かれたリンパ腔があり,脈絡外隙Spatium perichorioideum, perichorioidaler Lymphraum とよばれる.強膜の外面も1つのリンパ腔に面しており,これは眼球周囲隙Spatium circumbulbare(テノン腔Tenonscher Raum)とよばれる.

S. 589

 強膜の結合組織束は一定の構築法則に従って交織しているのであって,それはBecher(Verh. anat. Ges.,1932)がウシの眼を研究してくわしく記載したのである.ほとんど伸展しえない結合組織束ではあるが,それが波状をなしていることと,また交叉して網の目をなしていることのために,強膜は伸展できるのであって,これは皮膚について知られているのと同様である.ところで眼球の各部分で強膜の構築的および力学的性状が異なっており,前方部は固くて変形しがたいが,後方部はそれにくらべると曲げやすくできている.

ほぼ眼球の諸直筋の腱が付着するあたりで,結膜Tunica conjunctivaが強膜を被いはじめる.この部分の結膜は眼球の領域にあるので眼球結膜Tunica conjunctiva bulbiとよばれて,重層扁平上皮と丈夫な結合組織性の基層および疎な性状の結膜下組織からなっている(図605, 623).

 強膜がどんなぐあいに角膜と結合しているかは,すでに585頁で述べた.ここではさらに強膜と角膜の境の内面のところをみよう.そこには強膜静脈洞虹彩角膜角海綿質とがある.

 強膜静脈洞Sinus venosus sclerae(シュレム管Canalis Schlemmi, Schlemmscher Kanal(図623)は強膜の前縁のところで,その内壁にある.これは内皮をもって被われた輪状の静脈洞で,たいてい単一の管をなしている.しかしところによっては2本ないし3本に分れ,それがまた相合するといったぐあいで,強膜静脈叢Plexus venosus sclerae をつくっている.シュレム管は静脈系と開放性に結合しているだけでなく,(眼の血管の項を参照せよ)虹彩角膜角海綿質を介して水様液を吸いとるので,眼球のリンパ系とも開放性に結合しているのである.

 しらべられたすべての脊椎動物で,眼房の陥凹部Kammerbucht またはそこの壁のなかに,壁のうすい静脈叢があって,これは水様液で洗われている,下等の脊椎動物ではシユレム静脈洞は脈絡膜の方に流れでるが,高等なものでは結膜の方へ流れて出る.--死体においてこの静脈洞が水様液で充たされているかあるいは血液がはいっているかは,全く前眼房と毛様体静脈との圧力の関係によるのである.

 虹彩角膜角海綿質Spongium anguli iridocornealis(図623)は前眼房の虹彩角膜角Angulus iridocornealisにある小梁装置であって,横断面では三辺形をなしている,すなわちその1辺は前眼房に向き,第2辺は毛様体筋に向い,第3辺は虹彩に向かっていて虹彩の毛様体縁と幅ひろく結合している.この小梁装置は弾性物質に近い性状で,硬い原線維束からなり,それが網状につながりあって多数の大小いろいろのすきまをもっている.このすきまが前眼房とつながり,水様液でみたされている.個々の小梁は角膜の後面や虹彩の前面と同じく内皮で被われている.

 強膜の血管すなわち強膜上小枝Ramuli episcleralesは非常に微が少くて,動脈の方は毛様体小枝Ramuli ciliares,脈絡膜動脈および虹彩動脈Aa. chorioideae et iridisから来ている.これに反して強膜を貫く血管の数は多くて,これに前・中・後の3群がある.すなわち強膜は角膜縁の近くでは毛様体小枝によって貫かれ,赤道部では渦静脈Vv. vorticosaeによって,また視東侵入部のまわりでは脈絡膜動脈と虹彩動脈Aa. chorioideae et iridisによって貫かれている.強膜のリンパ路については液細管と内外のリンパ嚢(眼球周囲隙・脈絡外隙)をすでに述べた(後述の「眼球の脈管」の項をもみよ).強膜の神経は一部は自身に分布するもの,一部はここを通過するものである.通過するものとしては毛様体神経 Nn. ciliaresがある.電膜じしんに分布する神経は,強膜と脈絡膜のあいだを走る毛様体神経から分れて,結合組織の線維束のあいだで,その端が太くなった自由終末をなして終わっている.

 哺乳動物およびヒトの強膜では,血管壁に分布する神経終末のほかに,知覚性の終末が腱性線維の束のあいだにあり,また強膜の結合組織細胞の細胞体に終る栄養終末trophische Endigungenがある.

S. 590

2. 眼球中膜Tunica media oculi(図605)

 眼球中膜は境界の明瞭な3つの部分からなり,それらが前後にならぶ3つの帯をなしている.すなわち脈絡膜Chorioidesと毛様体Corpus ciliareと虹彩Irisであって,前2者はまた広義の脈絡膜とよばれる.

a) 脈絡膜Chorioides, Aderhaut(図612~615)

 これは暗赤褐色を呈する膜状の被いで,血管と色素を多量にふくみ,厚さは0.05~0.08mmである. Mörike(1949)によれば眼球後極のところで0.22mm,黄斑のところで0.26mmの厚さである.脈絡膜は視神経の侵入部から鋸状縁Ora serrataにまでのび,ここでいつのまにか毛様体に移行している.視神経の侵入部では脈絡膜にまん円い穴があいており,かつここでは脈絡膜が強膜としっかりと結合している.脈絡膜の内面は平滑であるが,外面は強膜をはがしてみると,脈絡外層Stratum perichorioideumという疎な性質の組織があるために,けばだっている.この疎な組織はたがいにつながりあう多数の腔所を囲み,脈絡膜と強膜とを結合している.この両膜のあいだはたやすくはがれるが,黄斑のところではその結合がいくらか固くなっている.強膜と脈絡膜のあいだにある腔所の系統は眼のリンパ路に属するもので,脈絡外隙Spatium perichorioideum, Perichorioidalraumとよばれる.

 脈絡膜には次の4層がある(図615):

1. 脈絡外層はたがいに鋭角をなして結合する多数の層板Lamellenからなり,横断面でみるとこの層板の数は5~6層である.これらの層板のあいだに上述の脈絡外隙がある.このような層板の各々は弾性線維の網でできており,色素をもつ多数の扁平な結合組織細胞が,散在ないし集団的に,この網にくつづいている.層板の1側または両側が内皮細胞で被われている.

 脈絡外隙を貫いて走るものは,毛様体神経Nn. ciliares(15~18本),虹彩動脈Aq. iridis(2本),脈絡膜動脈Aa. chorioideae(約20本)のほか,赤道部では渦静脈Venae vorticosae(ふつう4本)がある.

2. 血管板Lamina vasculosa(図615)は脈絡膜固有の動静脈の多くの枝が,色素細胞と弾性線維をまじえる結合組織の層板の密にかさなって交織したものによって結合されて,全体として緻密な組織となっているのである.最も目だつのは静脈の枝分れの状態である.すなわち脈絡膜・毛様体・虹彩からの血液を集めるかなり太い静脈が,ほぼ眼球の赤道部で,たがいに90°のへだたりをもつ4個所に集合するのがふつうである.これらの静脈は四方八方から放射状に集合血管に注ぎこみ,かくして4個所にそれぞれ渦静脈V. vorticosa, Wirbelveneを形成するのである.そして相隣る渦静脈の枝は,眼球の後部で弓状につながり合っている.

 しかし静脈の集合部ほ必ずしも90°ごとの位置にはなくて,ごく接近していることもあって,そのような場合には1つの渦静脈が重複しているようにみえることもあれば,ついには2つが合して1個の渦静脈になっていることさえある.あるいは両者の距離がいっそうはなれているときには5ないし6個の渦静脈が現われることもある.渦静脈の幹はまず脈絡外隙を,ついで強膜を貫く.--脈絡膜の静脈は血管周囲鞘でつつまれているので,この鞘と血管壁のあいだにリンパ腔がある.--眼球の前部(鋸状縁から赤道まで)では禍静賑の枝が血管板の表層を占めるが,眼球の後部では脈絡膜動脈Aa. chorioideaeがそれより表層にある.脈絡膜動脈はその大部分が視神経の外側で眼球内にはいるが,少数のものは内側からはいる.脈絡膜動脈はすべて脈絡膜の毛細管網に移行する(図613).--脈絡膜の動脈ははっきりした輪走筋をもち,なおまたその両側に縦走する平滑筋束がある.側方の縦走線維束はしばしば眼球の後部で,平滑筋線維の網によってつながりあっている.この限りにおいて,脈絡膜の筋性成分というものを考えることは当を得ている.鳥類では脈絡膜の後部に横紋筋線維の網があって,これは脈絡膜筋Musculus chorioideaeとよばれる.

S. 591

3. 毛細管板Lamina capillariumまたはChoriocapillaris(図614, 615)は毛細血管の密な網であって,この網は色素をもたない結合組織の中にひろがり,視神経の侵入部から鋸状縁にまで達している.この毛細管網は脈絡膜動脈からの多数の細い枝から血液をうけ,とくに血管のない網膜の外層の部分を養なう役目をしている.

 網膜の黄斑のところでは網の目がとくにこまかくなっている.毛細血管網から小さい静脈の起るところは,そのかたちが渦静脈を想わせる.この毛細血管は強膜の節状野のところで視神経の毛細血管につながっている.毛細血管網のあいだの組織はごくわずかで,ここには,外膜細胞と遊走細胞だけがある.その間隙は静脈のリンパ路とつづいている.

 毛細血管板とそれより太い血管が集まっている層とのあいだには,こまかい弾性線維網からなる境界層Grenzschichtがあって,ここはたいてい色素をもたない.

4. 基底板Lamina basialis(図615)は厚さ2µまでのガラスのように透明な層で,毛細管板と密着している.時おりこれに2層がみとめられ,その場合には外層は網状ないし格子状の構造をしている.基底板は年をとると肥厚するのが普通で,ところによって石灰化したゆする.

 脈絡膜の神経:長および短毛様体神経が脈絡外隙のなかを前方へ走り,それぞれ角膜・毛様体筋・虹彩への枝に分れる.その途中で有髄および無髄神経からなる細い枝を順々にだして,これらが脈絡外隙のなかで,神経細胞をふくむ神経叢を形成する.脈絡膜じしんに終る神経は,そこの血管に分布するのである.

[図612]脈絡膜の渦静脈(Arnold)×2

a 視神経,h 強膜の後部,c 毛様体筋(渦静脈の前方へのつづきをなす部分を被っている), d 虹彩,1 渦静脈の幹, 2 虹彩動脈

[図613]脈絡膜の動脈(Arnold)×2

a 視神経,c 毛様体筋,d 虹彩, h 強膜の後部,1脈絡膜動脈,2 虹彩動脈,3 毛様体小枝

[図614]毛細血管板 注入による平面標本

S. 592

[図615]ヒトの脈絡膜 横断

[図616]虹彩の前面 角膜は取りさつてある(x3)

S. 593

[図617]水晶体の固定の様子を前方からみる 角膜とその近くの強膜および虹彩の部分を取り除いてある(×3)

[図618]眼球(右)の前半部を後方からみる(×3)

S. 594

b)毛様体Corpus ciliare, Ciliarkörper(図605, 617620, 623)

 毛様体は鋸状縁から虹彩の毛様体縁にまでひろがっていて,これに3つの部分が区別される.

1. 毛様体輪Orbiculus ciliaris(図618)は幅4mmの帯をなして,鋸状縁に直ぐに接している.その内面にはこまかい隆線が経線方向に曲りながらたくさん走っており,これを小突起Processus minoresという.毛様体輪は組織学的には毛細管板の無いことを特徴としている.毛様体輪の前方部は毛様体筋の後端部によって外方から被われている.結合組織は原線維性の性質をもっており,結合組織束はその中に含まれる豊富な血管とともに経線方向に走る.基底板には格子状に厚くなったところがあって,そこは不規則な形の小さい腔所をもっている.色素上皮はこの腔所の中では,突出した隆線のところよりもいっそう固くついている.

2. 毛様体冠Corona ciliaris(図618).毛様体輪の前縁では,上に述べたこまかい隆線の集りが規則正しく合流してさらに大きい突起をつくっている.これは大突起Processus majoresとよばれて高さが1mmある.このような突起が1つの眼に70~80個も存在し,それらが全体として幅2~3mmの毛様体冠をつくっているのである(図618).

 大突起は長さ2~3mm,幅0.12mm,高さ0.8~1mmのひだであって,それが最も高まっているのは水晶体の縁に向いあったところである.大突起のあいだの低いところにも,低くて細かいひだ(小突起Processus minores)があって,毛様体輪の隆線のつづきをなしている.大突起のさきは水晶体の縁にふれるのでなく,生体の眼においてもこの縁から約0.5mmだけ離れている(図617, 618).

 毛様体突起Processus ciliaris(大小の突起をふくめて)の組織は毛様体輪の線維性結合組織のつづきである.毛様体輪におけると同様に,その結合組織性の骨ぐみは内面に基底板Lamina basialisと毛様体色素層Stratum Pigmenti corporis ciliarisと網膜の毛様体部Pars ciliaris retinaeとをもって被われている.またこの結合組織性の骨ぐみの外面は毛様体筋に接している.毛様体突起は血管に富むことが特徴である.その動脈は大虹彩動脈輪Circulus arteriosus iridis majorから来ている(図619).

[図619]子供の眼の脈絡膜と虹彩の血管(Arnold)内面からみる.×10

[図620]1個の毛様体突起をその長軸に対して直角の面で切ったところ(Schwalbe)

S. 595

3. 毛様体筋Musculus ciliaris, Ciliarmuskelは横断面では三角形を呈する平滑筋束で,毛様体の外面に位置をしめ,全体として輪状をなして,毛様体冠と,毛様体輪のこれに接する部分とを被っている.毛様体筋じしんは外方で疎な性質の脈絡外組織,および角膜と境を接している.その脈絡外組織のなかを虹彩動脈が前方へ走り,2つの枝に分れてこれらがたがいに離開し,両枝は毛様体筋にはいり,それを貫いて毛様体筋の前縁および虹彩に達する(図612, 613).

 毛様体筋は緻密な平滑筋ではなくて,とくにその深部では筋線維束が網状を呈し,その網の目は内方では円く,外方ではかなり引きのばされた形になっている.その隙間を結合組織が充たしている(図623).毛様体筋には次の3部分がある:経線の方向に走る部分,放射状に走る部分,輪状に走る部分.

 経線状線維Fibrae meridionales(Brueckii)は外層をなして,強膜と角膜の境のところから毛様体輪の領域にまでのびている.この線維群および以下に述べるものの一部は,強膜静脈洞の内側の核に富む組織(これは角膜の内境界板につナく)ならびに内境界板そのものから起こっている.それゆえ内境界板は特殊な中心腱Zentralsehneであると考えることができる.

 経線状線維の内方につづく線維束は,純粋な経線状の走向をやめて,だんだんと放射状の走向をとるようになる.これが放線状線維Fibrae radialesであって,毛様体筋の内面の方に向かっている.そして内面に達すると,赤道方向に走行を変えて輪走するようになる.

 ところが毛様体筋の前内方の隅のところにある線維束すなわち輪状線維Fibrae circulares(Muelleri)は,はじめから輪状の走向をもっていて,これはミュレルの輪状筋Müllerscher Ringmuskelともよばれる.ちなみに毛様体筋のその他の2部分は合わせて脈絡膜張筋M. tensor chorioideaeまたはブリュッケ筋Brückescher Mushelとよばれる.

 個体差が時としてみられる.とくに輪状線維はしばしば近視眼の人で発達がよわいが,これに反して遠視眼の人ではつよく発達している.年令差性差をR. Stieve(1949)が報告している.それによると毛様体は15才になって初めて完全な発達をみる.そして35~50才からは,毛様体筋のうち経線状線維の大部分が衰退しはじめ,これに反して輪走の部分には新しい筋線維が生ずる.55才をすぎると毛様体筋はすべての部分が退化してゆく.男女間のちがいは60才以後になって初めてあらわれる.

 毛様体筋の血管は虹彩動脈Aa, iridisおよび毛様体小枝Ramuli ciliaresから来る.また神経は毛様体神経から来て毛様体筋にはいり,ここで神経細胞をふくむ神経叢をつくっている.この神経叢からは内方へ虹彩の神経が,外方へは角膜の神経が出ている(457, 458頁参照).

 の毛様体筋はクランプトン筋M. Cramptonianusとよばれ,非常につよく発達しており,しかも横紋筋でできている.

c)虹彩Iris, Regenbogenhaut(図605, 616, 619, 621624)

 虹彩は眼球中膜の前の方の部分で,前額面上にあり,眼房内に露出した円板であって,その中央に円い孔があいている.これが瞳孔Pupilla, Sehlochであり,この孔を通って光線が眼のなかに達する.瞳孔は虹彩の中央より少し内側によっている.生体の眼では瞳孔の直径は3~6mmで,この大きさは入ってくる光線,眼の調節の状態,その他の影響で変る.瞳孔は角膜の後方で水晶体の前にあり,角膜と水晶体のあいだにある腔所を大きい前方部と小さい後方部とに分けている.これが前眼房後眼房である.虹彩の瞳孔に近い部分は水晶体の前面に直接ふれているので(この接触部分の範囲は広いことも狭いこともある),両眼房はそのためたがいに分離している(図605).

S. 596

 虹彩には前面Facies anteriorと後面Facies posteriorがあり,さらに自由縁と固定縁とがある.固定縁は毛様体についているので毛様体縁Margo ciliaris, Iriswurzel(虹彩のつけ根の意)ともよばれる.この縁はさらに虹彩角膜角海綿質(589頁)によって強膜角膜縁についている.つぎに自由縁瞳孔縁Margo pupillarisとよばれ,死体の眼では固定縁から4~5mmはなれている.この距離がすなわち虹彩という輪盤の幅である.虹彩全体の直径は10~12mmである.前面は内方の細い帯と外方の広い帯とにわかれ,それぞれ小虹彩輪Anulus iridis minor(Zona pupillaris)と大虹彩輪Anulus iridis major(Zona ciliaris)とよばれる.両帯を貫いて放射状のすじがたくさん走っている.瞳孔が開大しているときには大虹彩輪のなかに不完全な輪状の溝と高まりが生じ,これを虹彩槢Rugae iridisという.

 虹彩の厚さは中くらいの収縮のときに0.4mmほどである.また虹彩の色は個体によって実にさまざまである,金髪の人では青ないし灰色のことが普通で,緑を帯びていることさえある.褐色または黒色の頭毛の人は虹彩もたいてい暗い色調で,褐色ないし黒褐色を呈し,虹彩の全体が一様な色のこともあり,霜降りになっていることもある.(小口昌美(日本医科大学雑誌,8巻3号,1937)によれば日本人の虹彩の色は乳児期には黒褐色が最も多く,幼児期には濃褐色,学童期から壮年期まで褐色,老年期には褐色および淡褐色が最も多いという.)青い虹彩では虹彩の結合組織層に色素がない.しかし後面の色素はどの場合にもある.褐色の虹彩では結合組織性の虹彩支質に,程度の差こそあれ色素がかなり強く沈着している.白子の虹彩はまったく色素を欠き,多数の血管のために虹彩が赤くみえ,光線をさえぎる隔膜としての虹彩の使命をごくわずかしか果しえない.

 虹彩の諸層:虹彩はかなり多数の層からできているが,それらは発生の由来によって中胚葉性のものと外胚葉性のものとの2群に分けることができる.

 中胚葉性のもの:前面の内皮と虹彩支質.

 外胚葉性のもの:瞳孔括約筋と散大筋,虹彩色素上皮層Stratum pigmenti iridis,網膜の虹彩部Pars iridica retinae.

 前面の内皮vorderes Epithelは角膜内皮と虹彩角膜角海綿質の小梁の内皮とに直接ついている.若い人では虹彩の前面の内皮はひとつづきの層をなすが,年とった人ではこれが特有な断裂を示している.小虹彩輪のひだが永久的なものになると,その間のくぼみのところで内皮の断裂が生じる(Koganei).(東京大学初代の解剖学教授,小金井良精がベルリンで発表した論文,Untersuchungen über den Bau der Iris des Menschen und der Wirbelthiere. Arch. f. mikr. Anat. 25,1~48,1885. (小川鼎三))

 虹彩支質Stroma iridis, Irisstromaは虹彩の前面に接したところで密になって前境界層vordere Grenzschichtをなし,そこでは支質細胞Stromazellenが多く集り,線維は少くなっている.結合組織細胞はクモ(蜘蛛)のような形で,3~4層をなしてかさなっている.表面の方からみると前境界層は,結合組織細胞の突起によってできた密な網の構造をあらわしている.

 虹彩支質のうちで,前境界層より後方にある部分は血管層Gefäßschichtとよばれる.ここは血管と神経をふくむ層で,虹彩の主な部分をなし,疎性結合組織の構造をしている.小虹彩輪の範囲で,この層のなかに瞳孔括約筋がある.

[図621]瞳孔括約筋と同じく散大筋,ウマの虹彩を漂白して放射状方向に切ったもの×70 (R. Miyake, Verh. phys.-med. Ges. Würzburg,1901)

左方が瞳孔の側,右方が毛様体の側

[図622]瞳孔括約筋(s)と瞳孔散大筋(D)の関係を示す模型図(Miyakeによる)

v1, v2はsとDの間のつながり, aは支質内へ伸び出した部分.

S. 597

[図623]ヒトの角膜と虹彩と毛様体

[図624]ヒトの虹彩の後面に近い層の一部 色素を脱色してある.

S. 598

[図625]ヒトの視神経の断面 眼球に比較的近いところ.

[図626]ヒトの視神経乳頭部の断面

S. 599

 結合組織線維(膠原線維とごく少量の弾性線維)は主として血管(動脈・静脈)と神経のまわりで,強い外膜層をなして集まっている.輪走する線維はまれで,たいていの線維が血管の走向に平行している.血管外膜の表面には支質の細胞があって,これはたいてい紡錘形をしている.血管や神経のあいだの場所は疎性結合組織で充たされている.筋線維はない.なお褐色の虹彩では,そのほかに色素細胞がある.これは褐色の粒子でみたされた塊状の細胞で,大きさはまちまちである.この細胞は小虹彩輪のところに最も多い.

 瞳孔括約筋M. sphincter pupillae(図623)は輪状の筋板で,その厚さは40~80µ,幅は1mmである.小虹彩輪に存在するが,それも虹彩支質の後面に比較的近いところにある.括約筋をなしている平滑筋束は瞳孔をとり囲んで,瞳孔縁のすぐきわまで達している.括約筋のうしろには1層の結合組織があって,ここには放射状の断面では斜走する線維構造がみられ,これが括約筋の筋束のあいだの結合組織索とつながっている.またこの結合組織索に接して放射状の走向をとる筋束が,バラバラに少しばかり存在し,たがいに交織して瞳孔の方へ走りながら括約筋に移行している.これは瞳孔散大筋の一部である(図621, 622).

 瞳孔散大筋M. dilatator pupillaeの層すなわち散大筋層Dilatatorschichtはガラスのように透明な厚さ2µの膜をなして,虹彩の全体にひろがっており,その後面に虹彩色素上皮層Stratum pigmenti iridisが接している.散大筋層は放射状に走る平滑筋線維からできている.小虹彩輪の領域では,前述の放射状の平滑筋束が,ところどころで散大筋層の前面に合している(図622, 624).

 虹彩の後面は暗い色素をもった2層の細胞で被おれている.2層のうち前方のものは虹彩色素上皮層,後方のものは網膜虹彩部Pars iridica retinaeである(図624).両者は瞳孔縁でたがいに移行している.

 虹彩の神経は毛様体筋の実質の中およびその外面に存在する毛様体神経叢iPlexus ciliarisから起こっている.虹彩内にはいった神経の小幹(その一部は有髄性)は虹彩支質の前方部に1つあるいは2つの輪状の神経叢をつくる.そのうち瞳孔括約筋のすぐ近くにある神経叢は最も規則正しくみられる.すべての有髄線維は次第に髄鞘を失う.大部分の線維は瞳孔括約筋に分布するのであって,これらが括約筋の実質中に,細くて色のうすい軸索からなる叢をなしている.残りの神経線維は散大筋および血管にゆく.

 虹彩の血管については613, 615頁の眼球の血管の項をみられたい.

3. 視神経Fasciculus opticus(図605, 625, 626)

 視神経Augenstielは以前に視神経N. opticus, Sehnervとよばれたもので,視神経交叉Chiasma fasciculorum opticorumからはじまって,蝶形骨の視神経管Canalis fasciculi opticiを通って眼窩にあらわれ,そのなかを進んで眼球に達する.眼窩内での視神経の走りかたは直線的ではなくて,S状にまがっている.すなわち後半部は下外側に凸,前半部は外側に凹をむけて弓状にまがっている.

 視神経は眼窩の内部で視神経鞘Vagina fasciculi opticiという脳膜のつづきに包まれている.すなわち視神経は硬膜の鞘Durascheideである外鞘Vagina externaと,クモ膜と柔膜の鞘Arachnoides-Piascheideである内鞘Vagina interna,およびそれらが境するリンパ腔によって包まれている.外鞘と内鞘のあいだのリンパ腔は鞘間隙Spatium intervaginaleとよばれ,クモ膜のうすいつづきによって,外方の狭い部分と内方の広い部分とに分れている.丈夫な小梁がクモ膜鞘を硬膜鞘に結びつけている.また小梁の網がクモ膜鞘と柔膜鞘のあいだに張られている(図605, 626).

 視神経の硬膜鞘は眼球壁へ移行し,強膜の外方2/3の層につづいている.柔膜鞘は大部分が強膜の内方1/3の層に移行する.その移行部で鞘間隙は細くとがって終わっているのが普通である(図605, 626).

S. 600

 視神経の全周および全長にわたって,柔膜鞘の内面から多数の小梁が分れて出て視神経の内部に侵入し,これらが網状に結合して800ばかりの小さい鞘をつくっている.その鞘のなかに視神経の神経線維が束をなしておさまっているのである.

 視神経の前方部はまた2つの重要な血管をもっている.それは網膜中心動脈静脈A. et V. centrales retinaeで,たいてい眼球から15~20mm離れたところで,視神経の下内側の4半分から,柔膜鞘の一部に被われながら視東内に侵入し,その中軸部に達する.この柔膜の被いは視神経の中心結合組織索zentraler Bindegezvebsstrangをなすもので(図625, 626),前にのべた視神経の小梁とその網が,この中心索につづいているのである.視神経が強膜にはいるところでは,これらの結合組織小梁は太くなって数を増し,大部分が横走するようになる.それでこの部分を横断してみると,穴のあいた結合組織板がフルイをみるような印象をあたえる.これが強膜篩状野Area cribriformis scleraeであって,強膜の縁から中心結合組織索までのびている.そのほか近くの脈絡膜からも繊細な小梁が視神経にはいっている(図626).

 視神経の線維は強膜篩状野までは有髄で,直径は平均2µである.もっと細いものも多数まじっているが,また5~10µの太い線維もある.線維の数を決定することはむつかしいが,およそ500,000本である.視神経は中枢神経の一部なので,シュワン鞘のかわりにグリアNeurogliaが存在する.篩状野のところでは神経線維が髄鞘を失って,無髄の状態で眼球内に達する.それゆえ視神経の太さは,図605と626に見られるように,この場所でいちじるしく細くなる.

 変異:ときどき視神経線維の髄鞘が,ある距離だけ眼球内へのびていることがある.

 神経:硬膜鞘には多数の神経線維があって,その神経線維束はたがいに吻合して,ところどころにはっきりした網の目をつくっている.柔膜鞘にも,神経線維がその血管にはわずかに,結合組織には豊富に来ている.すなわち血管には内頚動脈神経叢から,結合組織には動眼神経から神経が来ているのである.Ph. Stöhr, Anat. Anz., 55. Bd.,1922.

4. 色素上皮層Stratum Pigmenti, Pigmentepithel(図615, 620, 623, 624, 627, 628)

 色素上皮層は視神経の侵入部から虹彩の瞳孔縁までのびる単層の上皮である.それが瞳孔縁のところで折れかえって,網膜の虹彩部につづいている.眼球中膜の3部分に対応して,色素上皮層も部位によって3つの部分に分けられている.

α)網膜色素上皮層Stratum pigmenti retinaeは色素をもつ単層の上皮細胞からなる.この層が広がる面上を見ると,おのおのの上皮細胞は多角形で,核以外の細胞体の部分は色素粒子でみたされ,隣りの細胞とは明るい線条でわけられている(図627).細胞はたいてい6角の柱状で,いっそう稀には4~5角や,7~9角の柱である.なお細胞の底面は直径が12~18µである.最も大きい細胞は網膜色素上皮の辺縁のところにある.側方から,ないしは断面でみると,この細胞が小棒をもつ上皮Stäbchenepithelienに属し,かなりの高さをもっていることぶわかる(図628).細胞の基底部すなわち脈絡膜に接する部分には色素がない.細胞体のこれにつづく部分との境のところに,楕円形の明るい核がある.さらにこれにつづく部分は色素をたくさん含んでいて,ここから色素をもった多数の細い突起(小棒とか,「まつ毛のような糸状突起」と形容できる)がでて,網膜の杆状体や錐状体のあいだを外境界層の近くにまでのびている.色素粒子は長くのびて棒状を呈し,1~5µの長さである.色素(フスチンFuscinとよばれる)は褐色で,水・アルコール・エーテルに溶けない.この色素は酸素の存在下で光によって色があせる.光が作用すると多数の色素粒子が前述の小棒をつたわって網膜の外境界層にまで移動する.しかし暗所では,これらの粒子はまた細胞体へもどってくる.

S. 601

細胞体はその側面も基底面も小皮性のケラチン膜Keratinhülleで被われている.隣りあう細胞のあいだが明るい線(図627)で境されているのは,この小さい鉢か帽子のような小皮性の被いがあるためである.

β)毛様体色素上皮層Stratum pigmenti corporis ciliarisはいっそう単純な構造である.ここでは細胞の丈が低いばかりでなく,突起がなくて,ありふれた種類の色素上皮となっているのである(図620).

γ)虹彩色素上皮層Stratum pigmenti iridis.これに所属する低い円柱細胞は連続した単層をなして瞳孔散大筋の後面を被っている(図624).この層は虹彩の自由縁で網膜の虹彩部に移行する.

 白子Albinosでは色素上皮層のどの部分にも色素がない.

[図627]ヒトの網膜色素上皮層 平面標本

[図628]ヒトの網膜色素上皮層の細胞 側面からみる.睡毛状の長い突起と,色素を欠く頂と帽子状の部分がみられる.核は示されていない.(M. Schultze)

[図629]杆状体と錐状体の横断 ヒトの網膜をその面に平行に切った標本

5. 網膜Retina, Netzhaut

 網膜は視神経の侵入部から虹彩の瞳孔縁にまでのびている(図605).網膜には視部Pars opticaと盲部Pars caecaがある.視部は視神経の侵入部から鋸状縁までの部分である.また盲部は鋸状縁から虹彩の瞳孔縁までの部分であって,これがさらに網膜の毛様体部(鋸状縁から虹彩の毛様体縁まで)と網膜の虹彩部(虹彩の後面)とに分けられる.

α)網膜の虹彩部Pars iridica retinae(図624)は色素を多量にふくんだ単層の上皮細胞からなり,虹彩色素上皮層の上に直ちに接してこれとくつづいている.つまり虹彩は,2層の上皮がその後面すなわち内面に付着していることは,毛様体と同じである.虹彩ではこの2層のうち後方の上皮層は厚さが30~35µであって,その細胞はあまり多量の色素を含んでいるので,核が被いかくされ,細胞の境界もほとんど見えない.しかし色素を脱色した切片や,白子のばあいには,細胞の境界が容易にみとめられる.

β)網膜の毛様体部Pars ciliaris retinae(図620, 623)は,やはりその上皮細胞が単層をなすにすぎないが,ここには色素がなくて,細かい顆粒をふくみ,縦にすじがついてみえる.その上皮細胞の高さは大突起のところで約14µである.上皮細胞の高さは鋸状縁の方へすすむにつれて目立って増してゆく(40~50µ).さて鋸状縁より後方には:

S. 602

γ)網膜の視部Pars optica retinaeがつづく.この柔かい膜は新鮮な状態ではすき通っている.しかし死後,あるいは適当な固定によって不透明になったものでは,その毛様体の後縁のところを肉眼でよくみると,網膜の視部が毛様体部に移行する場所が,細かいギザギザのある縁をなしていることがわかる.これが鋸状縁 Ora serrataである(図618).

 鋸状縁は外側部よりも内側部がいくらか前方に伸び出している.すなわち中心がずれているのであって,言葉をかえていえば,毛様体輪は眼球の内側部より外側部でいっそう広いのである.

 鋸状縁の鋸歯の数はもともとは(個体発生的に)毛様体の大突起の数(ほぼ70個)と一致するものであるが,のちの状態になるには思いきつて削減のおこることが必要である.鋸状縁の状況ははなはだまちまちで,鋸歯がほんの中しわけ程度のこともあり,とくに眼球の外側部では完全にそれが無いこともあるが,内側部では最もよく,しかもいつも間違いなく発達している.こんなわけで鋸状縁のところでは鋸歯の数ばかりでなく,網膜の縁の様子が全般的に著しい変異を示すのである.

 眼底部の網膜視部では,2つの場所がその特殊性によって他の部分とは著しく違っている.その1つは視神経が網膜に侵入するためにできる視神経乳頭であり,もう1つは黄斑とよばれる場所である.

1. 視神経乳頭Papilla fasciculi optici(図605, 606, 626)は眼球の後極より約4mm内側にあって,直径1.5~1.7mmの円くて白い斑紋をなしている.乳頭の中央の部分は軽いへこみになっている.これが乳頭陥凹Excavatio papillae fasciculi opticiであって,視神経の中軸を走ってきた網膜中心動静脈がここからでてくるのが見られる.

2. 黄斑Macula luteaと中心窩Fovea centralis(図605).網膜の黄斑は視神経乳頭の4mm外側にあって,同時に乳頭と同一の水平面よりはやや下方にある.黄斑は黄色い色素をもっていることが特徴である.その形は長軸を横にした卵円形で,その中央が強くへこんでいる.この落ちこんだ黄斑内の凹部を中心窩とよぶのである.中心窩の位置はほ穿眼球の後極に当たっている.

 黄斑は横の直径がおよそ2mmであるが,中心窩は0.2~0.4mmにすぎない.視神経乳頭の中央と中心窩との距離は3.915mmである.

 新鮮な眼では,したがってまた生体の眼底鏡像では,黄斑および中心窩のところが黄色ではなくて,赤褐色ないし褐色にみえ,中心窩のところは薄くて透明なので,その下にある層がすき通ってかすかにみえる.剥離した網膜や死んでしまつた眼では,黄斑の黄色い色調がはっきりと現われるが,それは網膜が不透明になり,その下にある組織がすけて見えなくなるからである.

 網膜は乳頭の縁から鋸状縁へと,次第に厚さを減じてゆく.乳頭のところでは約0.4mmの厚さがあるが,そこから内側へ8mmはなれたところではわずか0.2 mmとなり,さらに鋸状縁のそばでは0.1mmに減じる.乳頭より外側では,黄斑と中心窩があるために厚さの変化の様子も違っている.黄斑の最も厚いところは0.49mmにも達するが,中心窩の底となるとわずか0.1~0.08mmあるのみとなる.

 新鮮な網膜をしばらく光線にさらしたものは無色であるが.光の来ないところに置いて色の消えないようにしたどきの網膜は赤紫色である.その赤い色調がなくなるのは組織が死滅するためではなくて,光の作用なのである.この色素は視紅Sehpurpur, Rhodopsinとよばれ,網膜の杆状体の外節についている.視紅は黄斑と中心窩, ならびに鋸状縁につづく幅3~4mmの辺縁部には存在しない.

 網膜の諸層:視神経乳頭から鋸状縁までの網膜は多数の層によって構成されている(図630).それを外方から内方へとみてゆくと,すでに述べた色素上皮層につ穿いて,杆状体Stäbchenと錐状体Zapfienの層がある.つぎに表面に平行して外境界膜Membrana limitans externaという薄い膜があり,これは横断面でみると鮮鋭な線をなしており,杆状体と錐状体をいわゆる外顆粒層äußere Körnerschichtから仕切っている.しかし外顆粒層というのは,杆状体と錐状体の層の一部であって,その核をもっている部分にほかならないのである.つまり外顆粒層と杆状体錐状体層とがいっしょになって視細胞層Schicht der Sehzellenという1つの全体をなすのである.

S. 603

つまりこれは視細胞からなる神経上皮Neuro-Epithelであって,そのうちの核のない部分が杆状体錐状体層であり,核のある部分が外顆粒層である.

 網膜の外方の主要部ともいえるこの上皮性の部分につづいて,内方の主要部がまず外網状層äußere, retikuldire Schichtをもってはじまる.外網状層の内方には,それよりずっと厚い内顆粒層innere Körnerschichtが続き,さらにその内方に内網状層innere retikuläre Schichtがある.その次には多極性の大きい神経細胞の層がある.これは神経細胞層Ganglienzellenschichtとよばれて,網膜のたいていの場所では単層である.最後に色のうすい視神経線維の集まった層があり,この層は乳頭から鋸状縁へと次第にうすくなっている.これが神経線維層Nervenfaserschichtである.網膜はその硝子体に向かった内面を内境界膜Membrana limitans internaという特別の膜で境されている.第2の主要部(内方の主要部)は神経上皮(外方の主要部)に対して網膜の脳層Cerebralschichtともよばれる.神経上皮は脳室の上衣Ependymに相当し,脳層は灰白質と白質に当るのである.そして白質が皿状の網膜の凹面に沿って存在するわけである.網膜の血管は内方の主要層にだけ分布して,外方の主要層にははいってゆかない.

 網膜には支持組織Stützgewebeがかなり多量に存在し,またそれが特異な構造をしている.これは視細胞および神経細胞と同じ由来のものであるが,それらとは異なった方向に分化したのであって,細膜のグリアなのである.この支持物質としてもいろいろな部分があるが,その中で目立っているものは,網膜を放射状の方向に貫いて,外方の主要層までずっと深く入りこんでいる剛い線維であって,これを放線線維Radialfasern,支持線維Stützfasern, ミュレル線維Müllersche Fasernといい,この線維は網膜の内面でそれぞれ1つの円錐状のふくらみをなして始まっている.このふくらみ,すなわち放線線維円錐Radialfaserkegelの基底が前述の内境界膜にあるのであって,つまり各円錐の基底が密にくっつきあって1つのモザイクをなしているのである.基底面が小皮縁kutikulare Säumeをなして縁の方へ厚くなり,それによって硝子体から境されている.円錐が伸びたさきの柱は神経線維層・神経細胞層・内網状層を通りぬけて,内頬粒層の中では平板状のこまかい線維性の突起をいろいろな方向に送りだし,外顆粒層の中ではかなり散らばつた状態で細い線維と線条にわかれ,最後にフルイのように穴のあいた外境界膜Membrana limitans externa(この膜じしんも放線線維の産物に属する)と結合する(図632).

[図630]ヒトの細膜視部の横断(黄斑外周部)

右方の図は網膜の主要な3つのニューロンの形態と配列を模型的にしめすものである.S:アマクリン細胞Spongioblast.

S. 604

ところが外境界膜じしんがまたその表面から多数の細い突起を杆状偉や錐状体の基底部のあいだへ送りだしている.これがいわゆるFaserkörbe(線維のかご)である.内顆粒層では各放線線維(つまりこれはグリア細胞に他ならない)が1つの核をもっている.放線線維は網膜の中央部より周辺部でいっそう密集しており,黄斑のところでは痕跡的な形成を示しているにすぎない.

 これで網膜の構成についての概観が得られたので,次にはそれぞれの層の特色をもっとくわしく述べることにしよう.黄斑はかなり変つた構造をしているので,網膜の全体を広い黄斑外周部と小さい黄斑部とに分けて扱かうことにする.

a)網膜の黄斑外周部Perimakulares Gebiet

1. 神経線維層Nervenfaserschicht:これは軸索の束からなり,それがグリア細胞によってまとめられている層である.個々の軸索束はたがいに叢状の多数の結合をしている(図633).乳頭より内側ではこの叢が純粋に放射状(経線状)にひろがるが,外側の半分では黄斑がそのような配列を乱す因となっている.乳頭と黄斑のあいだの場所を走る束は黄斑束Maculabündet(日本解剖学会制定の用語では乳頭黄斑束)とよばれ,非常に細くて,乳頭から黄斑へ一部は直線的に走っている.その上方と下方に接する束は,まず放射状に走るが,じきに方向を変えて,上方のものは下方へ,下方のものは上方へむかう.そのさい黄斑束に隣る束は豊富に叢をつくりながら,弓状をなして結合する.残りの束は次第にまた放射状に方向をまげる,中心窩から4mm外側にある小さい1つの三角形をしたところは黄斑傍三角Trigonum paramaculareとよばれ,3つの方向からの線維束が相会するために生じたものである.中心窩においては神経線維層がほぼ完全に欠けている.またこの層は鋸状縁に近づくにつれて次第に束が細くなって,鋸状縁ではこれがなくなっている.

2. 神経細胞層Gqnglienzellenschicht(図630, 631, 634):この層は網膜の大部分のところで単層であるが,黄斑の近くでは2層である.黄斑の内部では8~10層もあるが,中心窩へおちこむ傾斜のところでこの層の神経細胞が次第に減り,中心窩の底では完全になくなっている(図631).中心窩のまわりで神経細胞が土手のようにうず高く集まっていることと,中心窩の底で球少していることとは,関連がある.網膜の周辺部では神経細胞の相互の隔たりが大きくなり,鋸状縁のあたりではところどころに散在するのみとなる.神経細胞は多極性のもので,直径は10~30µあり,神経突起を神経線維層に送り,1本またはそれ以上の樹状突起を内網状層に送っている.

[図631]ヒトの中心窩を通る断面

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3. 内網状層innere retikutdre Schicht(図630, 631, 634):弱拡大ではこの層が細かい顆粒状にみえるので,またの名をinnere granulierte Schicht(内顆粒層)またはinnere molekulare Schicht(内分子層)という.この層はいろいろな種類の神経細胞の樹状突起と神経突起とがつくる豊富な枝分れからできている(図634).この層じしんに属する神経細胞はまれではあるが,本当の神経細胞がところどころに散在して,主として水平方向にその突起をのばしている.この層の厚さは網膜の大部分の場所で40µ,鋸状縁のところでは30~35µである.

 内網状層にはその外方の境界からも原線維のふさ状の群がはいってきて,内方の境界からはいってくる原線維のふさ状の群(これは神経細胞層からくる)が達するのと同じ階層にまで至つている.つまり両方の原線維の群が反対の方向からやってきて,内網状層のいろいろの深さのところで相会するわけで,その様子は2つの異なった方向からきて接しあう樹木の梢に似ている.

4. 内顆粒層innere Ktirnerschicht(図630, 634):双極性の神経細胞を主体とする層で,この細胞がいくつかの層をなしている.その最深層はSpongioblastenschicht(海綿芽細胞層)であって,この層の細胞はとくによく色素をとり,突起は1本しかださない.それでこの細胞はアマクリン細胞amakrine Zellenともよばれる.(µaχρος(長いもの)を欠く細胞の意である.日本解剖学会制定用語の無軸索突起はあまり適訳でないと考える.(小川鼎三))その突起はすでに述べたように内網状層にはいり,そこで原線維のふさ状の群をつくっている.

 そのほかの細胞は双極性細胞Bipotarzellenであって,相対する両極からそれぞれ1本の突起がでている.そのうち外方の突起は,となりの外網状層のなかで原線維のふさをなして終わっている.また内方の突起は内網状層にはいっていって,また注目に価する現象をしめすのである.すなわちその終末小枝が内網状層内のいろいろ異なった階層に発達して,神経細胞層の細胞の細胞体や樹状突起の枝と接触している.これらの双極性神経細胞はすべて細胞体の発達がはなはだ貧弱であるため,核のある部分が強くふくらんでいる.さらに内顆粒層には,中心性の遠隔細胞zentrale Fernzellenからの軸索がここを貫いており,またその終末小枝もみられ,なおまたミユレル支持線維の核をもつ部分もこの層に在存するのである.

5. 外網状層äußere retikuläre Schicht(顆粒間層Zwischenkörnerschicht) (図630, 631, 635):これは一見して顆粒状の物質からなる薄い層であって,3に述べた層と同様に神経細胞のはなはだ豊富な枝(おそらくその一部はまたグリア細胞のものであろう)が主体をなしている.神経細胞の枝としては,ここには4に述べた層の双極性細胞から外方に伸びる無数の終末小枝がきている.さらに神経上皮層の細胞から内方へ伸びてきたものの終末がある.

 この層にはそのほかに中心性の遠隔細胞zentrale Fernzellenからの終末小枝がある.最後にこの層には水平細胞Horizontalzellen(図360)という固有の細胞がたくさんあって,その終末分枝は水平の方向にひろがり,それがつくる原線維の水平方向のふさには,外層のものと内層のものとが区別できるのである.

[図632]網膜の放線線維をクローム銀染色によってしめす ネコ(G. Retzus 1894)

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6. 視細胞層Schicht der Sehzellen(図630, 631, 635).視細胞の核はひとまとまりになって外顆粒層をつくっているが,同じこの視細胞の核のない外方部は棒状および円錐状のものになって,外顆粒層とのあいだを外境界膜によって分けられた核のない1帯をなしている.

α)杆状体視細胞Stäbchen-Sehzellen, Lichtzellen(光の細胞) (図629, 630, 635).それぞれの杆状体細胞は杆状体Stäbchenと杆状体線維Stäbchenfaserと杆状体粒Stdbchenkornとからなる.

 ヒトの網膜の杆状体は長さ約60µ,太さ2µの円柱形をしており,外節Außengliedと内節Innengliedからなっている.

 外節は強く輝いてみえる円柱状の部分で,複屈折性である.内節は微細顆粒性で,単屈折性であり,かるく紡錘状にふくらんでいる.外節は上皮細胞の小皮構造Kutikulargebildeに当り,内節は核より表面のがわにある原形質部に当たっている.外節の基底に直線的に切断されているようにみえるが,これに対して末梢端は円蓋状にもりあがっていたり,階段状に段がついていたりする.強拡大でみると,いくらかラセン状にねじれた1本の縦のすじがみとめられる.これはおそらく色素上皮細胞の突起が接することを現わすものであろう.しかしさらに重要なのはこまかい横縞Querstreifungがあることで,それは外節が高さ0.6µの多数の小円板の積みかさなってできたものであることを示す.これらの円板が1種の結合物質によってくっつけられて外節をなしている.外節にはさらに神経角質Neurokeratinでできた薄い無構造の被いがある.また杆状体の外節には視紅がついている(602頁).それゆえ錐状体だけしかない場所,すなわち中心窩のところには視紅が存在しない.外節の内部物質は皮質より軟かい.そのために中軸糸といったようなものがみられ,これがいわゆるリッターの糸Ritterscher Fadenである.

 杆状体の内節にはしばしば縦のすじがあり,これは外境界膜の線維が籠状に接するためにできている.内節の外方部にはレソズ形の部分があって,そこが線維性の構造を示している.この部分は糸状装置Fadenapparatあるいは杆状体の楕円体Stäbchen-Eltipsoidと呼ばれて,たいていの脊椎動物に存在している.

 杆状体線維はいくつかのコブ状のふくらみをもつ傾向があり,その内方端は1つの小さい棍棒状のふくらみをなして外網状層に着いていて,外網状層の中へは億んのわずか入り込んでいるにすぎない.杆状体線維は端から端までのあいだのどこかで杆状体粒によって中断されている.この粒の位置は外境界膜に近いこともあれば,外網状層に近いこともある.

[図633]網膜の内面における視神経線維の放散 網膜の内面からみる.(v. Michel)

[図634]ある哺孔動物の網膜の横断 クローム銀染色(Cajal)

a 杆状体, d 錐状体, e 杆状体と連絡する双極性細胞,f錐状体に連絡する双極性細胞,r 杆状体に連絡する双趣性細胞の内方突起の分枝, r2 同じく錐状体に連絡するものの分枝. 9, h, i, j, k 神経細胞の突起が内網状層のいろいろな深さのところで分枝している.x 杆状体線維とこれに連絡する双極性細胞との接触, Z 錐状体線維と双極性細胞との接触, s 遠心性神経線維,t ミュレル細胞(放線線維)

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杆状体粒は,長さ6~7µの楕円形で横縞をもった核の部分だけからできているといえる.杆状体粒の両極は常に暗い色調の物質によって占められ,明るい縞は1本のここともあればそれ以上のこともあり,弓状にまがっていることもある.

 杆状体の内節は外境界膜によって杆状体線維から分離されているわけでは決してなくて,この境界膜に杆状体と錐状体の数だけの孔があいていて,この孔をとおして細胞の両部分がたがいにつながっているのである.

β)錐状体視細胞Zapfen-Sehzellen, Farbenzellen(色の細胞) (図629, 630, 635):これは錐状体Zapfenと錐状体線維Zapfenfaserと錐状体粒Zapfenkornとからなっている.

 錐状体は光を強く屈折する外節Außenglied(錐状体小棒Zapfenstäbchen)と,色のうすくて柔かな内節Innenglied(錐状体の体部Zapfenkörper)とをもっている.外節は円錐形で柞状体の軽節よりも短くて,視紅をもっていない.内節は太さが6~7µで,円みをもってふくらんでおり,杆状体の内節ほど外方へ達していない.内節の外方部には錐状体の楕円体Zapfen-Ellipsoidがあって,これはヒトでは杆状体の糸状装置とその性状が似ていて,錐状体の内節の大部分を占めている.錐状体の外節は積みかさなった小円盤からできており,また角質(ケラチン)の被いで包まれている.

 ヒトでは網膜の大部分の場所において,最も近い2つの錐状体のあいだを結ぶ線の上に3つか4つの杆状体が存在する.しかし黄斑の近くでは錐状体が密に集まってくるので,錐状体の1つ1つが杆状体の1列の環によって囲まれるようになる.さらに黄斑じしんのところでは錐状体だけしか存在しない.錐状体の総数はヒトの網膜では約3, 360,000であり,視神経の線維の数をはるかに越えている.また杆状体の数は75,000,000と見積られている.

 錐状体粒は黄斑を除いてはどこでも,外境界膜(この膜にやはりそれぞれの錐状体細胞に相当して孔があいている)のすぐそばにある.錐状体粒の核は大きくて楕円に近い形であり,横縞はなくて,核小体を1つもっている.この粒から出る錐状体線維は比較的太くて維のすじがはいっている.この線維は旅射状に内方へ走り,微細な線維をもった円錐状の付着部によって外網状層に固着している.

 錐状体粒杆状体粒とがいっしょに外顆粒層をつくっている.この層の厚さはヒトでは50~60µであって,その中で錐状体粒は外方の層を占めている.

鋸状縁の領域(図605)

 網膜の視部Pars opticaから毛様体部Pars ciliarisへ移行するところ,すなわち鋸状縁Ora serrataで網膜の厚さが急に減ずる.およそ45°の急傾斜でうすくなる.もっとも鋸状縁の後方ですでにいくつかの層が消失して,網膜の厚さが減じているのである.そのさい視神経線維と神経細胞がまずまばらになり,ついには全くなくなってしまう.視細胞のうち杆状体視細胞が早く消失するのに対して,錐状体視細胞の方はなお存在しているが,しかし退化的な形をあらわしている.次いで外網状層がなくなり,そのために内外の顆粒層が合することになる.しまいに内網状層もまた終りとなる.これらとは逆に豊富になるのがミュレルの支持線維であって,そのために視部の最外方の縁のところは,ほかのところよりいっそう丈夫な作りになっている.

[図635]杆状体視網胞と錐状体視細胞 模型図(M. Schultze)×700

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b)網膜の黄斑部makulares Gebiet(図631)

 黄斑の黄色い色調は,この部の網膜では視細胞よりびまん前にあるすべての諸層に黄色い色素が瀰漫しているためである.この色素は視細胞には欠けており,またそれゆえ中心窩の底にはない.

 黄斑の周辺部が厚くなっているのは,主として神経細胞が著しく増加して密集していることによる.しかしそこから中心窩の底へ向かってまず神経線維層がなくなり,ついで神経細胞層と内網状層, 最後に内顆粒層と外網状層とが消失する,したがって中心窩の底には視細胞性の成分だけ一しかも錐状体視細胞だけしか存在しないのである.とはいっても細かい網状を呈するごく薄い1層が錐状体線維の層を被ってなお存在している.これは内外の両網状層の残りものに相当するのである.

 中心窩Fovea centralisは卵円形で,水平方向には0.2~0.4mmあるが,鉛直方向には0.15mmしかない.中心窩のいちばん深い底には錐状体粒の1層があるだけで,ここでは網膜の厚さが80µしかない.

 錐状体は黄斑のところで次のように形が変る.その内節がはじめはまだ4~5µの太さをもっているのだが,まもなく長さ60~70µ,太さ2~2.5µという細長いかたちになる.この部分の血管を欠く範囲内に約13000個の錐状体がある.錐状体視細胞粒は外境界膜の内面にすぐ接していないで,12µ離れたところでやっとはじまる.またそれらは単一の層をなしていないで,3~4層に重なっている.また長い錐状体線維の走りかたが特徴的であって,これらは概して放射状に外方へのびて,周辺での連絡個所に達している.かくして外線維層äußere Faserschichtがよく発達しており,その厚さは170µにも達する.

網膜内および網膜から中枢神経系までの刺激伝導(図636)

 視線維は大部分が網膜の神経細胞層の細胞から起こっている.この神経細胞の神経突起が視神経の線維となって伸び出しているのである.しかし視線維の第2の部分は網膜外のところ すでに述べた諸中枢がら起こっている.このような中枢としてまず挙げられるものは四丘体の上丘・視床・外側膝状体・後頭葉の楔部の皮質である,最後の後頭葉の楔部皮質は第2次視覚中枢として,それより前に挙げた第1次の諸中枢に対立させられている(442, 443, 45t頁).

[図636]杆状体と錐状体から外側膝状体までの刺激伝導をしめす模型図(Cajal)

a 錐状体, b 杆状体, c, d 双趣性細胞, e 神経細胞,f 遠心性細胞,9 アマクリン細胞,h 網膜にはじまる神経線維の自由終末分枝, j この神経細胞の樹状突起がそこに到来する視覚刺激をうけとる.r 遠心性視神経線維の起始をなす細胞.

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 網漠から起つた視神経線維の一部が外側膝状体に達して,そこの神経細胞のまわりに終末小枝を形成しながら終る様子についてはすでにのべた(410, 442, 443頁).網膜から起る視神経線維の残りの部分は同様にして四丘体の上丘に終るのである.すなわち視神経節Ganglion opticum(網膜の神経細胞層をさす)から発する線維はその神経突起を上丘の表層を占める灰白層へあたえ,ここでそれぞれ1つの終末小枝に分れて上丘の神経細胞と接触する.この神経細胞からでる神経突起の一部はその付近で終り,一部は放射状に上丘内のいっそう深い層へ達する.しかし網膜の内方の主要部で終る網膜の外来線維Fremdfasernがこれらの場所のどこから起こっているかは,まだよく分かっていない(図636).

 視神経の交叉はヒトでは部分的なものである.非交叉性すなわち同側性の視路が実によく発達していて,交叉性の線維の1/3またはそれ以上にも達している(Cajal,1899).

 各側の視索Tractus opticusに非交叉性(同側性)の視神経線維と交叉性のそれとがあって,その中にはまた瞳孔線維Pupillarfasern(これは網膜から上丘にいたり,そこから動眼神経の括約筋核に達して,瞳孔反射の発現にあずかる)がふくまれる.さらに遠心性線維zentrifagale Fasern(Cajal, Dogiel)もあって,視覚の諸中枢から起り,おそらく網膜の刺激伝導機能に必要な何らかの影響を眼におよぼしている.(この線維が網膜の単純知覚性のものとは考えにくいのである.)視索にはさらに黄斑からきた黄斑束(=乳頚黄斑束)が交叉束と非交叉束とに分れて走っている.最後にまた両側の網膜を交連性につないでいるらしい線維がある.

 網膜の血管については眼球の血管の項を見られたい(613, 614頁).

6. 水晶体Lens crystallina, Linse(図605, 637643, 645)

 水晶体はまるい輪郭で,両面凸のレンズの形をしている.水晶体には弯曲の弱い前面Facies anterior lentis,弯曲の強い後面Facies posterior lentis,水晶体赤道Aequator lentisのほか,さらに前極Polus anterior lentisと後極Polus posterior lentisがある.両極のあいだを結ぶ線が水晶体軸Axis lentisである.

 水晶体軸は4mm,赤道面の直径は9~10mmである.前面の曲率半径もやはり8.3~l0mmであり,後面のそれは6.5mmである.近いところを見るために調節すると,水晶体の厚さが増し,そのさい前面の弯曲がとくに強くなる.両面とも弯曲面が正確に球面の一部ではなくて,前面は楕円に,後面は抛物線に似た曲り方をしている.水晶体の平均の重さは成人で約0.22 grである.

 屈折率は1.44~1.45で,複屈折性を示すものである.子供は成人より水晶体の弯曲がつよい.老人になるといっそう平たくなる(図637).

 水晶体は虹彩と硝子体とのあいだにあって,前面は中央部が瞳孔に面している.中央部につづくところでは,水晶体前面が虹彩の小虹彩輪と接しているが,前面の辺縁部は虹彩から離れていて,虹彩ならびに毛様体とともに後眼房Camera oculi posteriorをかこんでいる(図605).

 水晶体の後面は硝子体の前面の硝子体窩Fossa hyaloideaというくぼみにはまっている.水晶体の辺縁部は繊細な水晶体小帯Apparatus suspensorius lentisによって毛様体につなぎとめられている.毛様体の大突起は水晶体の縁まで達していない(図605, 617, 645).

 水晶体をなしている物質は生体の眼では水のように透明で,若い人では無色であるが,年をとると少し黄色みをおびる.約60%の水分と35%の蛋白質をふくんでいる.水晶体被膜Capsula lentisとよばれる嚢が水晶体質Substantia lentisを包んでいる.水晶体質には水晶体皮質Cortex lentisと水晶体核Nucleus lentisが区別されるが,両者ははっきりした境なしに移行しあっている.

 水晶体には血管神経もない.

 組織学的にみると水晶体には3つの異なった構成部分がある(図638~640).すなわち水晶体被膜水晶体上皮水晶体線維(これは形態学的には上皮細胞)である.

[図637]いろいろな年令のヒトの水晶体を側方から見たところ(Quain)

a 新生児, b 成人, . c 老人. 3 図とも前面を左にむけてある.

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1. 水晶体被膜Capsula lentis, Linsenkapselはガラスのように透明な膜で,水晶体質の全表面を包んでいるが,どこでも同じ厚さというわけではない.

 この被膜は水晶体の前極でもっとも厚く(10~15µ),赤道へ近づくほどに次第に薄くなり,赤道のうしろでまた厚くなり,それ泳ち次第に厚さを減じて後極のところで最もうすくなる(5~7µ) (Rabl, C., Z. wiss. Zool., 67. Bd. ).

 水晶体被膜の断片は強い弾性のために外方へ巻いてしまう.この膜は化学的には膠原線維性の物質にも弾性線維性の物質にも属さない.濃度の高い酸に対してごくわずかの抵抗しか示きず,水の中で煮ればとけるけれども,冷やしても「煮こごり」にならないのである.またトリプシンに溶ける.これといちばん縁の近いのは筋鞘Sarkolemmaと腺の基底膜(Grundhäutchenである.水晶体被膜の断面を強拡大でみると,表面に平行した細かい縞がみられる.この被膜は層板Lamellenの集まりで,それぞれの層板に分離できるのであって,上述の縞はこの層板に相当している(Berger).被膜の由来をたずねると水晶体細胞の産物であって,従って純粋に小皮性のものである.このことは下等の脊椎動物で確かめられている,高等な脊椎動物とヒトでは,ほとんど間違いなくこれと同じことがいえるのであるボ,その証明は下等の脊椎動物におけるほど確かには出されていない.なぜなら,すでに発生の初期に中胚葉の細胞と血管が水晶体の周りに現れるので,水晶体の形成に結合組織があずからないということが,下等動物の場合偉ど決定的にはいい切れないからである(Rabl, C., Z. wiss. Zool., 67. Bd).

2. 水晶体上皮Epithelium lentis, Linsenepithel(図639, 640)は水晶体の前面にだけあって単層の細胞からなっている.この細胞は子供では丈のひくい円柱形であるが,成人ではもっと扁平である(Rablによれば2.5µ).赤道に近づくほど丈が高くなって(9µ, Rabl),ついには水晶体線維に移行する.

3. 水晶体線維Fibrae lentis, L insenfasern(図638)は6つの側面をもつヒモ状の細胞で,長さはまちまちで(表層のものは7~10 mm),幅は7~12µ, 厚さは2.5~5.5µである.核は卵円形で顆粒と核小体をもち,細胞の全長のほぼ中央のところにある.しかし中心部の水晶体線維には核がない.

 水晶体線維は放射状に列または層板をなして並んでいる.この配列は下等な脊椎動物でははなはだ規則正しいものであって,それにくらべれば高等な脊椎動物では規則正しさがずっと少なくなり,ヒトでは最も不規則になっている(図640).

 層板の数は成人ではざっと2100から2300である(C. Rabl).

 水晶体線維の形は場所によってまちまちである.今まで述べたのは赤道の近くにある線維についてだけのことである.これらの線維はRablのHauptfasern(主線維)あるいはGrundfasern(基礎線維)というものであって,核をもち,ヒトでも規則的な列びかたをしている(図640).

[図638]ヒトの水晶体の赤道部における水晶体線維

[図639]家兎の水晶体縁を通る経線方向の断面(Babuchin)

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 ヒトの場合には赤道から少しはなれると,個々の線維の横断面も層板の配列も,多くの不規則性を示すのである.規則正しい線維の放射状配列が,層板の分裂や挿入や隣りあうものの融合のためにそこなわれるからである.この層の線維はRablがÜbergangsfasern(移行線維)と名づけたものであって,すでに胎生後期には核を失っている.水晶体の中軸部にある線維すなわちRablのZentralfasern(中心線維)ははなはだ不規則な形をしている.この線維は波状または鋸歯状の縁をもち,横断でみると不規則な六角形か五角形で,四角形のものさえある.核はない.

 いっそう古い記載によれば水晶体線維の縁には,表皮の有棘細胞の棘に相当するところの細かい鋸歯がある.じっさい水晶体はその発生からみて一種の表皮組織であり,その細胞は変形した表皮細胞である.水晶体線維は接合質Kittsubstanzによってたがいに結合されている.この接合質は煮たり酸につけておいたりするとゆるくなるので,こうして線維をバラバラにすることができる.生体の水晶体にはその線維のあいだに上皮内液迷路interepitheliales Saftlabyrinthがたとえ貧弱な状態であっても存在しており,栄養物がそこを通るのに役立っていることは先ずまちがいない.何となれば水晶体もまた物質代謝をなしており,栄養の補給を必要とするからである.

 固定または浸軟した水晶体の前面と後面をみると,最も単純な場合には3つの方向に光を放つ星のような像が各面に1個ずつある.これが前および後水晶体星Stella lentis anterior, posterior, vorderer und hinterer Linsensternである(図641~643).各星のもつ3つの光芒は水晶体星放線Radii stellarum lentisとよばれ,たがいに120.の角度をなしている.前水晶体星は鉛直の放線を上方へ向け,後水晶体星はそれを下方へ向けている.水晶体の外方層にはなおそのほかに放線がみられることがふつうで,この場合には水晶体星は6本または9本の放線をもつものとなっている.水晶体星という像が出現するわけは,多数の水晶体線維の端のところがたがいに相接してぶつかる,いわば縫合線Nahtlinienのところが肉眼でみとめられるのである.

[図640]成人の水晶体の赤道面での断面(C. Rabl)

[図641~643]胎児と新生児において水晶体線維の走行と水晶体星の配列を示す模型図×7(Quainより)

図641は後面から,図642は前面から,図643は側面からみたところ.cは3図とも水晶体星の中心ならびに水晶体の前後極を示す.1から6までの数字は等しい間隔をもつ6本の水晶体線維を示し,それらの走行は3図を合せてみるとよく理解できる.

7. 硝子体Corpus vitreumと水晶体小帯Apparatus suspensorius lentis(図605, 617, 644646)

 硝子体Glaskörperは水晶体と毛様体の後方で,網膜でかこまれた眼球内の腔所--硝子体腔Glaskörperraumをみたしており,それゆえ前後から少し圧平された球の形をしている(図606).

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硝子体の前面はへこんで硝子体窩Fossa hyaloideaをつくっており,水晶体がここにはまっている.硝子体は視神経乳頭から鋸状縁のところまで,すなわち後方の全領域を硝子体膜Membrana hyaloideaという膜で包まれている.この膜は鋸状縁より前方では毛様体と虹彩とのごくうすい内方の壁層となって続いている.また硝子体膜でつつまれる透明な内容は,水分に富む硝子体支質Glaskörpergallerteである.(日本解剖学会制定の用語ではStroma corporis vitreiは「硝子体支質」であるが,本書で説くそのものは「支質」というには全く当らぬので,仮りに「硝子体支質」とする.(小川鼎三))

1. 硝子体膜と水晶体小帯

 硝子体膜はガラスのように透明で,うすいけれども丈夫な構造の膜であり,その外面は網膜の内境界膜に密接し,内面は硝子体支質Stroma corpotis vitreiに密につづいている.その内面には紡錘形や円みを帯びた細胞で突起をもつものが散在している.これは結合組織の細胞である.

 毛様体と水晶体と硝子体膜のあいだにはかなりの空間があって(図645),そこには水晶体をつなぎとめているごく華奢なひも状の装置がある.これが水晶体小帯Apparatus suspensorius lentisで,小帯線維Fibrae suspensoriaeという多数の線維が集まってできている.これは毛様体の全円周から起り,別々の束をなして水晶体被膜の赤道部に達している.

 水晶体小帯の線維団が存在する場所は,図645で容易にわかるように後眼房Camera oculi posteriorに属しており,従って後眼房と同じくリンパでみたされている.この場所は小帯隙Spatium apparatus suspensoriiとよばれる.毛様体の大突起の前端部同志のあいだが横走する橋わたしによって結ばれて,その中へ毛様体の結合組織が侵入し,かくして輪状板Lamina circularisという1つの輪ができている.輪状板の前面よ色素上皮と網膜によって被われるが,この面と虹彩の毛様体縁とのあいだに後眼房陥凹Recessus camerae posteriorisが伸びてきている.

 また輪状板の後面と硝子体膜とのあいだには小帯隙陥凹Recessus spatii apparatus suspensorii lentisがある(図646).

 図645は小帯線維の走行を示している.後方からくる線維は主として毛様体突起のあいだの谷間をかすめて前方へ走り,水晶体の赤道より前方の部分につく.これに対して毛様体突起そのものから起る前方の線維は,前者と交叉しながら走って,水晶体の赤道より後方の部分につく.そして両者のあいだに中間の線維というべきもの,があって,水晶体の赤道自身にている.従って水晶体への付着区域はかなり広いのである.同時に注目を要するのは,本来の水晶体被膜の上にあるもう1つ別の被膜に線維が付着していることである.これはレチウスの被膜周囲膜Membrana pericapsularis(Retzius)というもので,図645では数ヵ所で本来の水晶体被膜からある程度もち上つてみえている.

2. 硝子体支質Stroma corporis vitrei, Gtaskörpergallerte(図644)

 これは水分を98%まで含んでいる.濾過すると硝子体液Humor corporis vitreiがでて,それとともに重量の大部分を失ってしまう.この液はいろいろな塩類や有機成分を含み,ごくわずかの蛋白質も溶けている.液体成分が除かれたあとに残る固形成分は全重量の0.21%にすぎない.

 硝子体支質は無構造なものではなく,むしろかなり多量に糸のように細かい透明な線維といろいろな形の結合組織細胞とを含んでいる.また遊走細胞(白血球)も硝子体にあらわれることはすでに述べた.

 線維は硝子体の内部を貫いて細かい叢をなしているが,この叢に特別な線維の走りかたを見うるのはわずかな場所にすぎない.

[図644]成人の硝子体線維

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 大体において,顆粒性の微細な線維があらゆる方向に走って交叉しあい,ところどころに集まって特別の結節点をなしている.線維はそれ以外のところでは盛んに交叉はするが,たがいに結合することはないようである.線維が顆粒状を呈することが著しい.中年になると硝子体線維がつくる骨ぐみは,ある種の溶解のために若い時代よりも少くなる.膜様の線維束もあるにはあるが,これが規則性を示すことはほとんどない.ただとくに周辺部において同心性の線維束がみとめられる.また胎生期の硝子体管Canalis hyaloideusの位置で,硝子体線維の骨ぐみが厚くなってるのがいつも区別できる.

 硝子体管は視神経乳頭のところで少し広くなってはじまり,ここから水晶体の後面まで達する.胎児の眼ではこの管は内径2mmほどであって,硝子体動脈A. hyaloideaという水晶体にゆく重要な血管を容れており,残りは疎な硝子体組織で占められている.新生児の眼ではこの血管がまだ相当残っていて,水晶体の近くにまで達している.この.血管が退化しても,それに伴っていた結合組織が初めのうちはまだ残存している.しかしこれも結局は液化して消失するのである.視神経乳頭のところにだけはこの組織の残りがあって,乳頭陥凹をみたす結合組織床をなしている.子供の眼ではこの残存部がずっと大きくて,硝子体管のなかへ伸びだした高さ2mmまでの栓状物をなし,その底の直径は約1/2mmである.

 G. Retzius, Biolog. Untersuchungen N. F., Bd. IV,1894.-H. Virchow, Fächer, Zapfen, Leisten, Polster, Gefäße im Glaskörperraum. . . . Merkel u. Bonnet, Ergebnisse der Anatomie,10. Bd.,1901.

[図645]成人の水晶体小帯 経線状に切断(G. Retzius,1894)

[図646]後眼房陥凹と小帯隙陥凹 大突起の前端部を通る1断面(Retzius,1894の原図にもとついて描く)

8. 眼球の脈管

a)血管

 眼球の血管は2つの異なった系統に属する.すなわち網膜の血管系と眼球中膜の血管系とであって,両系は視神経の進入部においてたがいにつながりあっている.

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1. 網膜血管Vasa sanguinea retinae, Netzhautgefäße(図647).

 これは網膜中心動静脈A. et V. centrales retinaeの枝である.視神経はその柔膜鞘のなかに視神経を養う血管をもっている(鞘血管Scheidengefäße).網膜中心動静脈は眼球から15~20mm離れたところで視東内に入り(600頁参照),その中軸部をさらに進んで網膜の視部に分布する.

 この動脈と静脈はともに乳頭のところ,あるいはすでに視神経の中で2つの主枝に分れる.たいてい静脈の方が少し早く分岐する.両主枝は乳頭の表面でもう一度それぞれ2つの枝に分れるが,この分岐もすでに視神経の中で起こっていることがある.上下の両主枝から内側へそれぞれ1本--および下内側網膜動静脈Arteriola et Venula nasalis retinae superior, inferior,外側へもそれぞれおよび下外側網膜動静脈Arteriola et Venula temporalis retinae superior, inferiorがでるのである.内側のものは外側のものより短い.また内側の血管は放射状に鋸状縁の方へ走るが,外側の血管は黄斑に凹側を向けた弓をえがいている.なおそのほかに乳頭から2つの小さい動脈と静脈がでて,放射状に走って黄斑にいたる.これをおよび下黄班動静脈Arteriola et Venula macularis superior, inferiorという.

 乳頭の内側にもこれと同様の走り方をする2つの細い血管がたいてい存在し,内側網膜動静脈Arteriola et Venula retinae medialisとよばれる.黄斑には血管があるけれども,中心窩の底にはない.しかし中心窩の縁のところにはやはり血管がある.

 比較的大きい血管は神経線維層にあって,だいてい内境界膜に密接している.その枝は視細胞層にまでは達しないで,外網状層で終わっている.こう述べれば中心窩に血管がとぼしいわけは,おのずから明かであろう.網膜の動脈の枝はたがいに太い血管で連絡することがなく,毛細管で結合されているだけである.つまり終動脈Endarterienなのである.毛緬管は網膜の内方部では目のあらい網をなし,外方部では目の細かい網をなしている.外方の網は内方の網の付属物というような観を呈し,内方の毛細管網は網膜動脈の枝から直接に起こっている.内方の毛細管網から静脈がはじまる.動脈と静脈は外膜性の鞘でつつまれている.

 上に述べたところから,網膜の外方の主要層の全部すなわち視細胞層は血管を欠いている.この層は毛様体血管系から毛細管板Lamina capillariumを通じて栄養をうけるのである.

 網膜血管系は胎生期にいっそう広く発達していた血管の一部が永存した部分である.この血管系の一時的の部分は胎生期には硝子体を貫いて水晶体に栄養を送ることを役目としている.それが硝子体動脈A. hyaloideaであって,網膜中心動脈のつづきをなして視神経乳頭から水晶体に達している.この動脈枝は水晶体後面で枝分れしながら次第に水晶体の縁を越えてすすみ,水晶体前面に達する.そしてついには水晶体前面の瞳孔部さえもこの血管の分布範囲にはいってしまう.

[図647]ヒトの網膜の血管(E. JägerおよびLeber)

amとvmは黄斑動静脈,1 上外側網膜静脈,2 上内側網膜静脈,3 上外側網膜動脈,4 上内側網膜動脈,5 下内側網膜動脈,6 内側網膜動脈,7 内側網膜静脈,8 下内側網膜動脈,9 下外側網膜動脈,10 下外側網膜静脈,11 下内側網膜静脈.

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かくして瞳孔部にひろがった血管網をMembrana pupillaris(瞳孔血管膜)という.これに対して水晶体の赤道から瞳孔縁までを包む血管網の部分はMembrana capsulopupillaris(被膜瞳孔血管膜)と名づけられる.また血管の諸枝が水晶体の後面を包む部分はMembrana capsularis(被膜血管膜)とよばれる.つまり水晶体はある時期には水晶体血管層Tunica vasculosa lentisという血管の被いで完全に包まれているのである.しかしその後一定の順序で各部分が消失し,最後に硝子体動脈の幹(静脈が伴なっている)そのものがなくなるのである.

 網膜の血管とその他の眼球血管との結合はごくわずかにあるのみで(Leber),それはもっぱら視神経の進入部に存在している.

1. 視神経の進入部で脈絡膜動脈Aa. chorigideaeからの2~3本の枝が強膜にはいり,ここで視神経血管輪Circulus vasculosus fasciculi opticiを形成する.この血管輪から多数の枝がでて脈絡膜にいたり,いっそう細い枝が視神経とその鞘にゆく.2. 視神経が脈絡膜を貫くところで多数の細い血管が脈絡膜から視神経にはいり,視神経の毛細管網とつながる.

2. 眼球中膜の血管系

 これは脈絡膜動脈・虹彩動脈・毛様体小枝ならびにそれらに所属する諸静脈・渦静脈・毛様体静脈からなる.(図612, 613.619, 648, 649を参照).

a)脈絡膜動脈Aa. chorioideaeは眼動脈A. ophthalmicaから4~6本の枝として発し,眼球に達するまでに枝分れして,視神経の進入部で18~20本の枝となって強膜を貫く.この膜を通りぬける前に細い枝を強膜の後半部と視神経の硬膜鞘に送っている.脈絡膜にはいると,そこでひろがって毛細管板Lamina capillarium(591頁)の豊富な毛緬管系をなしている.視神経の進入部でこの血管は視神経血管輪および毛細管板の毛細管を介して網膜血管系とつながっている.また脈絡膜の前方部の領域では,約10本の後方へ走る枝によって虹彩動脈・毛様体小枝・大虹彩動脈輪と結合している.

[図648]眼の血管の模型図(Leber)

水平断,動脈は既静脈は黒.a, a 脈絡膜動脈;b 虹彩動脈;c, c' 毛様体小枝;d, d' 結膜小枝;e, e' 網膜中心動静脈;f 視神経の柔膜鞘の血管;g 同じく硬膜鞘の血管;h 渦静脈;i 小脈絡膜静脈;k, k 視神経にゆく脈絡膜動脈の枝;l 脈絡膜の血管と視神経の血管との吻合;m 脈絡膜の毛細管板;n, n 強膜上を走る動脈と静脈;o 逆行する枝;p 大虹彩動脈輪の横断;p 虹彩の血管;r 毛様体突起とその血管;s 虹彩と毛様体から渦静脈に注ぐ枝.そのすぐ下方で毛様体筋からの枝をうけている;t毛様体筋からの前毛様体静脈の枝;u シュレムの強膜静脈洞.その結合についてはLeberの原著とは少し変えて描いてある.v 角膜の辺縁係蹄網;w 結膜小枝.

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b)虹彩動脈Aa. iridis (図649)は2本あって,1本は眼球の内側に,他は外側にある.いずれも強膜と脈絡膜のあいだを走って毛様体にいたり,ここで大虹彩動脈輪Circulus arteriosus iridis majorをつくって毛様体小枝と吻合している.大虹彩動脈輪からは放射状に走る多数の血管が虹彩にはいる(図649).その吻合によって大虹彩輪と小虹彩輪のさかいのところにある小虹彩動脈輪Circulus arteriosus iridis minorisが生ずる.

 大虹彩動脈輪からは2, 3本の逆行枝がでて,毛様体冠と毛様体筋および虹彩に分布する.

 虹彩動脈は大虹彩動脈輪によって毛様体小枝と吻合し,また逆行枝によって脈絡膜動脈と吻合する.

c)毛様体小枝Ramuli ciliaresは4つの眼球直筋の動脈からたいてい2本ずつ起こって,枝分れをしながら前方へ進み,角膜縁のうしろで強膜を貫き,強膜静脈洞のうしろで毛様体筋に進入する.毛様体小枝が強膜を貫く前に細い枝が分れて,強膜の前方部および眼球結膜にゆく.盤膜を貫いた枝は毛様体筋の中で枝分れして大虹彩輪と毛様体筋にいたる少数の逆行枝もでている(図648, 649).

 静脈については,

1. 渦静脈Vv. vorticosaeは590頁ですでに述べた.この静脈は虹彩・毛様体冠・毛様体筋の一部・毛様体輪・脈絡膜から血液を集め,強膜を貫いてからは強膜の表面上を走る静脈をも受けている.

2. 毛様体静脈Vv. ciliaresは眼球内では毛様体筋からしか枝をうけないが,強膜の中を走るあいだに強膜静脈洞からつづく血管をうけている.強膜静脈洞は毛様体静脈と開放性に結合し,各毛様体静脈を輪状にグルリとつなぎ合せる静脈洞をなしている.強膜静脈洞から外側へ向かって多数の血管がでて,強膜の方へすすみ,毛様体筋からおこる毛様体静脈の枝と強膜内で結合する.毛様体静脈は眼球をでたのち,強膜の表面上の貧弱な血管網から,また眼球結膜から血液をうけて,最後に眼球直筋の諸静脈に注いでいる.

[図649]虹彩と脈絡膜の血管 前からみる.×2.5(Arnold)

b) リンパ路

1. 眼球の前方部にはまず前眼房Camera oculi anteriorがあり,そのほか角膜と強膜のこれに接する部分とには液細管Saftkandilchenがある.

 前眼房は水様液Humor aqueus, Kammerwasser(眼房水)とよばれる水の様な透明の液体でみたされている.この液はごく少量の蛋白質および糖とわずかの白血球をふくみ,液の量は0.2~0.3gである.前眼房は毛細管のように狭い虹彩水晶体間隙Iris-Linsenspalteによって後眼房につづき,後眼房はまた小帯隙Spatium apparatus suspensoriiとつづいている.

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水様液は後眼房において毛様体と虹彩の脈管から産出される.そしてここから前眼房へ流れ,さらに虹彩角膜角海綿質Spongium anguli iridocornealisのすきまから強膜静脈洞Sinus venosus scleraeをへて毛様体静脈Vv. ciliaresにはいる.角膜の方へ液が流れ去ることはないか,あるとしても微々たるものにすぎない.角膜の栄養も水様液から行われるのではなく,角膜を輪状にとりまく角膜辺縁係蹄網Randschlingennetz der Hornhautから供給されるのである.なお角膜のリンパ路については586, 587頁に記した.

2. 眼球の後方部には視神経・網膜・硝子体のリンパ路と脈絡外隙のリンパ路がある.

 視神経のリンパ路についてはすでに599頁に述べた.網膜のリンパ路は一部は血管の周囲をとりまくもので,これは豊富にあり,一部は視神経からつづく神経線維束に伴っているものである.

 強膜と脈絡膜のあいだによく発達している間隙系すなわち脈絡外隙Spatium perichorioideum(588, 590頁)は脈絡膜でつくられるリンパを集める.ここから流れでるリンパの一部は渦静脈の周囲をつつむリンパ管を通ってまず眼球周囲隙Spatium circumbulbareに注ぎ,これがさらに鞘上隙supravaginaler Raumにつづいている.流出路の一部は脈絡膜動脈に伴なってもっと短い経路をとり,これもまた眼球周囲隙にいたる.またリンパの一部は視神経管のところで視神経の鞘間隙を通っている.

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最終更新日 13/02/03

 

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