Rauber Kopsch Band2. 28

漿膜嚢Sacci serosi, seröse Säcke

 漿膜嚢は4つあって,そのうち2つは不対のものであり,残りの2つは対をなしている.すなわち不対の心膜嚢と,左右の胸膜嚢と,不対の腹膜嚢とである.これらの嚢を作っている漿膜は心膜Pericardium, Herzbeutetと左右の胸膜Pleurae, Brustfelle,および腹膜Peritonaeum, Bauchfellである.これらの漿膜で閉じられている空所はそれぞれ心膜腔Cavum pericardii, Perikardialhbhle,胸膜腔Cava pleurae, Pteurahöhlen,腹膜腔Cavum Peritonaei, Bauchfellhöhleという.心膜と左右の胸膜はこれらによって包まれている諸器官とともに胸腔Cavum thoracis, Brusthöhleのなかにあり,腹膜は腹部の内臓とともに腹腔Cavum abdominis, Bauchhöhleにはいっている.

I. 心膜Pericardium, Herzbeutel(図99, 223, 343, 346, 347)

 心膜は第1次の漿膜ということのできるすべての漿膜がそうであるように,心膜に壁側葉Parietales Blattと臓側葉viscerales Blattとを区別する.

 この2重の嚢は心臓を完全に包んでいて,弛緩した状態では円錐形をしており,その底は横隔膜の上面と結合している.一方,先端は鈍円を呈して心膜頂Cuppla pericardiiといい,上方に向かっていて,心臓に出入する太い諸血管の起始部をそれらの最初の分岐のところまで包んでいる(図99).ひろがった状態では心膜が卵形をしている.

 壁側葉はその上に線維性の層,すなわち線維膜Tunica fibrosaが重なっていて補強している.両者(壁側葉と線維膜)はいっしょになって外心膜Pericardium externumをなすのである.すなわち外心膜は内方の漿膜層と外方の線維層とからなっている.この膜は心臓に密接している.

 線維性の層は丈夫で厚い固い結合組織性の膜であって,線維性結合組織の束と弾性線維からできている.これらの束の特別な配置によって心膜は拡張性と弾性をもっている(Wallraff, J.,1937).

 横隔部Pars diaphragmaticaにおいて線維層は横隔膜の腱中心と結合している.しかし固い結合は腱中心の前縁に沿ってこれにつづく横隔膜の筋肉部にわたっている狭い横走の1つの帯状部だけにみられる.心膜頂では線維層が管の形をなして長くのび,太い血管の外膜に続いている.

 心膜の前壁は胸肋部Pars sternocostalisといい,胸骨の後面と何本かの(たいていは2本の)線維性の索,すなわち(上,下)胸骨心膜索Chordae sternopericardiacae (cranialis et caudalis)によってつながっている.上方では椎前筋膜の束が心膜と大血管とに放散してきている.これを上心膜索Chordae pericardiacae craniales という.

S. 268

 心膜の右と左の外側部Partes lateralesは外側を胸膜の心膜部によって被われている.この心膜部は胸膜の(右と左の)縦隔部の一部である.それゆえ心膜の線維膜は2つの漿膜のあいだに閉じこめられており,これらの漿膜がやはり心膜の固定にあずかるのである.心膜の後壁すなわち後部Pars dorsalisは,線維性結合組織によって食道と胸大動脈とにゆるくつながっている.しかし普通は少数の丈夫な結合組織索があって,後部を脊柱につないでいる.

 正常の広がりをしている心膜嚢の容量はWallraffによると510~800ccmであり,伸びた状態のとぎは820~1190ccmである.

 臓側葉は心外膜Epicardiumといい,心臓の外表面.と大血管の起始部を被っている.心外膜は上行大動脈と肺動脈の幹を円くとりまいていて,これらの大血管に共通な短い管状の鞘,すなわち動脈漿膜鞘Vagina serosa arteriarum, seröse Arterienscheideとなっている.

 臓側葉はまた上大静脈の一部と4本の肺静脈の一部をも被っている.下大静脈はごく短い部分だけが心外膜で被われている.そのわけは下大静脈は横隔膜を通りぬけてからほとんど直接に右心房に達しているので,そのあいだには狭い場所が残されているだけで,そこに漿膜が入りこんでいるのである.

 心臓とつづいている諸血管は,それが動脈であっても静脈であっても漿膜によって完全に被われているものが1つもない.大動脈と肺動脈においては,これら2つがたがいに相接していて,結合組織によってつながっている細長い部分が漿膜に被われていない.また右心房の一部と左心房の一部も心外膜によって被われていないのである.

 それゆえ心膜の臓側葉,すなわち心外膜は次のものを被っている.すなわち左右の心室の自由面,左右の心房の大部分,大動脈と肺動脈の表面のうちでこれらがたがいに相接していない部分,肺静脈内方部,上下の大静脈の開口に近い部分である.最後に述べた2つの大静脈からは留金状のひだが右心房に達している.

 壁側葉が臓側葉に折れ返るのは次の2ヵ所においてである.1. 心膜頂, ここからは大動脈と肺動脈が出ている(動脈門Porta arteriarum).2. 静脈のはいるところ(静脈門Porta venarum).後者は横にしたT字形をしていて,1本の縦走脚(上・下大静脈によって作られる)と1本の横走脚(肺静脈によって作られる)とをもっている.

 静脈門の横走脚,左心房の前壁,大動脈と肺動脈の後壁,心膜の後壁によって境された空所があって,これを心膜横洞Sinus transversus pericardiiといい,ここには左から容易に指をさしこんで到達することができる.

 心膜横洞の上端で左心房に向かったところに,肺動脈左校とそれに接している肺静脈とのあいだに心膜が1つのひだを作っている.これは()上大静脈ヒダPlica v. cavae cranialis(sinistrae), Wandfalte des Pericardiumsといい,血管と神経を包んでいる.このヒダは下方で左心房の側面において1本の細い索に移行している.この索は下左肺静脈のまわりをすすんでいて,左の上大静脈が閉鎖した部分を含んでいる.この部分が大心静脈の1小枝を左の第1肋間静脈に結合させている.

 心外膜の漿膜下脂肪組織がよく発達しているときは,切れこみをもった大小いろいろの突起を生じている.これを心膜脂肪ヒダPlicae adipqsae pericardiacaeといい,特に心臓の表面で大きな溝のあるところに存在する.心耳のところにも心外膜がその表てを被ってできている小さい突起がある.これを心膜絨毛Villi pericardiciという.

 心臓は漿膜嚢のなかに位置をしめているために,その休みない律動的な運動が可能なかぎり少ない磨さつのもとに行われるのである.

 形態学的な観点からいうと心膜腔は体腔の一部であり,同時に肋膜腔や腹膜腔と同様にリンパ腔でもある.生体における心膜液Liquor pericardiiの正常量はわずかなものであって,この液は壁をうるおし,なめらかに保つに足るだけである.死後しばらくするとその量はかなり増すのである.

 心膜には多数の細い血管があり,また迷走神経および横隔神経かちの枝が多数きている.リンパ管は臓側葉においてかなりよく発達しているが,壁側葉にはごくわずかしかない.

S. 269

II. 胸膜腔Cava pleurae(図343~347)

(, 右の)胸膜腔Cava pleurae(dextrum et sinistrum)は閉じられた2つの漿膜性の嚢で,胸腔の左右各半を内側から被っている.そしてそのなかには肺が内側面の方から入りこんで拡がっている.その漿膜の被いを胸膜Pleura, Brustfellという.

[図343]胸膜腔 前方から開いたところ(1/5)

 胸膜の壁側葉は黄色,心膜は緑色,横隔膜は赤色に塗り,頚部は剖出してある.前胸壁とそれに相当する胸膜の部分は取り除いてある.

 1 第1肋骨;2 胸骨柄;3 鎖骨の肩峰端,その内側部は両側とも取り除いてある;4 剣状突起;5 白線;7腹横筋;7 第7肋骨;8 胸鎖乳突筋;9 前斜角筋;10喉頭;11 甲状腺;12 中頚筋膜;13 前縦隔の上部;14 胸膜頂;15 胸膜の縦隔部;16 胸膜の肋椎部の下界;17 心膜(緑);18 肺の上葉;19 肺の中葉;20 肺の下葉;21 横隔膜.

 左右の胸膜は臓側部と壁側部とからなりたっている.

 臓側部は肺胸膜Pleura pulmonalisといい,肺門と縦隔肺ヒダPlica mediastinopulmonalisの付着部を除いた肺の全体を被っている.そのさい胸膜は肺葉を区切っている葉間裂に沿って入りこみ,肺門の近くの葉間裂の底に達して,そこで1つの肺葉の表面から他の肺葉の表面に移っている.

 壁側部は壁側胸膜Pleura parietqlisといい,肋椎部Pars costovertebralisとして肋骨と肋間筋,および椎体の内面を被っている.なおまた横隔部pars diaphragmaticaは突出した横隔膜の上面を被い,そしてさらに矢状方向にある第3の部分,すなわち縦隔部Pars mediastinalis(図343,15)が正中面の側方において後胸壁から前胸壁に,つまり椎体の前面から胸骨に達している.縦隔部のうちで心膜の外面を被っているかなり大きな部分は特に心膜部Pars pericardiacaとよばれる.各側の胸膜嚢の上部は胸膜頂Cupula, Pleurakuppel(図343,14)といい,その側の肺尖を入れていて,円錐形にふくらんだ嚢の形をなして胸腔の上口において頚部に突入しているようになっており,第1肋骨の前方部を上方に3~4cmも越えて,斜角筋群の下で,第7頚椎の中央の高さまで達している.斜角筋群はこの胸膜頂を上方から被っているのである.

S. 270

 しかし胸郭の上口は前下方にかたむいた位置をとっており,その後方の境は第1胸椎で始まっているので,胸膜頂は実際の頚部には低いふくらみをもってごく少し突き出ているにすぎない.一般に右の胸膜嚢は左のよりいくぶん多く頚部に入りこんでいる.

 局所解剖:胸膜頂は外側上方は斜角筋によって,内側は気管,食道, 鎖骨下動静脈のいずれも一部によって,上方は腕神経叢の下方の幹によって境されている.

 胸膜嚢の下界は横隔膜の起始にまでは達していない.むしろそれより早く横隔膜から胸壁に移っている.そのため横隔膜の周辺部は胸壁と結合組織によって直接に結合している.横隔膜は右側がいっそう強く上方に高まっており,それに相当して右の胸膜嚢は左よりもやや短いのである.しかし右は左よりもいっそう幅が広い.したがって胸膜の下界は本側が右側よりいつもやや下方にある.

 骨格との位置関係では胸膜の下界,いいかえると下胸膜線kaudale Pleuralinieは胸壁において胸膜の横隔部が肋椎部に折れかえる部分の投影線であるが,その走りかたは次のようである.これは個体的にいくぶん異なっている.この線はまず第6肋軟骨に沿っており,ついで第6肋間隙をよぎつて,さらに第7肋骨の骨部と軟骨部の境に達している.そこから上方に凹の弓を画いて第8~第11肋骨の骨部を越えてすすんでおり,その間にますます骨部と軟骨部の境から遠ざかつて,最後に第12肋骨の中央部に達する.そして普通は第12肋骨に沿って第12胸椎体にまで達するのである.ときにはこの線が第12肋骨の走行に沿わないで,その中央部でこれと交叉して脊柱にすすんでいる(この異常は腎臓の手術にさいし重要である).また左の下胸膜線はすでに述べたとおり常に右のよりも少し下方にある(図343~345).

 前胸膜線ventrale Pleuralinie,すなわち胸骨のところで肋椎部が縦隔部に折れかえる部分を投影した線と胸郭との関係を知ることも同じように重要である(図343, 344).胸骨柄の後面では左右の線が下方において集まってきて,そのために三角形の上胸膜間野Area interpleurica cranialisという場所が残されている.ここには脂肪組織と胸腺があるので胸腺野Area thymicaともいう.胸骨の中央部において胸骨の左縁に密接したところで左右の線はぶここにかつており,したがってその後方に心臓と心膜の一部を被いかくしている.左右の線は第4胸肋関節のところから次のようなぐあいにたがいに離れてゆく.左の線は左方への軽いへこみを示していて,これは左肺の心切痕にならつているのであるが,それに達してはいない.それに対して右の線は胸骨の左縁の近くをまっすぐに走りつづける.そして第6肋軟骨の高さになると前胸膜線は各側とも下胸膜線に移行するのである.ときおり左右の前胸膜線がたがいに重なっていることがある.かくして左の第4から第6までの肋軟骨の後方には胸膜のない下方の部分があり,これを下胸膜間野Area interpleurica caudalisという.またこの部分では心臓の一部が心膜に被われたま,胸壁に直ちに接しているので,ここを心膜野Area pericardiacaともいう.

 後胸膜線dorsale Pleuralinieは脊柱の上で肋椎部が縦隔部に折れかえる部分を胸壁に投影したものであって,左と右とで相異がある.左の後胸膜線は椎体の側縁に沿ってすすんでいるが,上部と下部では正中線に近よっている.右の後胸膜線はその経過の中央の部分で正中線を越えて左方にある.しかし上部と下部は正中線より右にある.また第4胸椎の高さで右縦胸静脈の末端部に相当する深い切れこみをもっている.

 変異:健康な人であっても胸膜線が上に述べた関係から多少とも重要な,ときにはごく著しい程度の変化をしていることがある.そのなかでも最も重要なのは左右の前胸膜線が胸骨の全長にわたってたがいに密接して走っており,そのために心膜は前胸壁から完全にひき離されている場合である.反対に左右の線がたがいに大きく離れて走っていて,右の線は胸骨の右縁を,左の線は胸骨の左縁を下行していることがある.また右の線は胸骨の右縁を走り,左の線が同じく胸骨の右縁までずれていることがある.

 肺の縁Lungenränderは呼吸のいかなる時期においてもこれらの胸膜線のすべてと一致しているわけではない.ある場所ではこの線よりうしろに退いており,またある場所ではこの線に一致している.

S. 271

 胸膜頂と胸骨および脊柱のところでは肺の界は呼気と吸気のあいだも胸膜線と一致している.ただ左肺の心切痕のところでは肺の鋭い前縁が胸膜線に達しないのが普通である.つよく空気をはきだした状態,および死体においては肺の下界はだいたいに直線を画いていて,右は第6肋骨の胸骨付着点,左は第6肋軟骨の中央から始まり,後方は第11肋骨の付着部,すなわち第10胸椎の棘突起の高さで終わっている.この線は脊柱から遠くない所で第11肋骨をよぎつている.肺の下界も肋膜下線のばあいと同じで,左がいつも右よりやや下方にある.

[図344, 345]胸膜と肺の境界線

 胸膜線は赤,肺の輪郭と肺葉の境は黒.図344は胸郭を前方から,図345は後方からみたところ.(1/5) 後胸膜線はHeissによる.

 生体において打診をしてみると,右の肺の下界は,胸骨労線では第6肋骨,乳頭線では第7肋骨の上縁,腋窩線では第7肋骨の下縁,肩甲線では第9肋骨,椎骨労線では第11肋骨であるという.左側ではこの境が肋骨1つの幅だけ下方にある.吸気のさいにはこの境が数センチメートルも下方に移動する.肺の後方の内側界が後方の下界に移行するところは弓状の線を画いている.後方の内側界の上端もやはり弓を画いて,次第に脊柱から遠ざかるのである(図344~345).

 肺の上葉と下葉の境は第4肋横突関節から(左は少し上方で第3胸椎の棘突起, 右は第4胸椎の肋横突起),あるいは肩甲骨との関係では肩甲棘の底から斜めに下前方にすすんで第6肋骨の軟骨部と骨部との境に達している.(右肺の)中葉の上界は第4肋骨の前部に沿って腋窩線まで達している(図344~345).

 下胸膜線は肺の下界をかなり大きく越えている.それゆえ胸膜嚢の下部と前部には帯状の部分があって,呼気のさいにはこの部分に沿って肋椎部と横隔部,ならびに肋椎部と縦隔部とが相接していて,そこには相当する肺の縁が含まれていない.この部分を胸膜洞Sinus pleurae という.

S. 272

[図346]胸膜洞 胸腔の3つの漿膜嚢の前頭断

[図347]胸腔の3つの漿膜嚢 横断

S. 273

 最もつよく吸いこんだとき,および病的な状態においてはこの部分の隙間のような場所が完全に開いて,肺によってみたされる.この場所の1つは横隔肋骨洞Sinus phrenicocostalis pleurae,あるいは下胸膜補腔unterer Komplementärrkum(Gerhardt)という(図343).

 呼気のさいには肺の下界がこの場所からふたたび出ていって,横隔部と肋椎部とは洞の高さに相当するところまでふたたび相接する.

 いままで述べたのは肺の下縁につ陸てであるが,肺の鋭い前縁についても,それより程度は少ないが同じことがあてはまる.この部分も呼気のさいには胸膜界まで達しない.それゆえここにも肋骨縦隔洞Sinus costomediastinalis(図347)という1つの場所がある.肺は深い吸気のときに初めてこの場所を完全にみたすのである.この洞のうち心膜と胸郭壁とのあいだにある部分を心前陥凹Recessus praecardiacusという.

 肺と縦隔とは肺間膜Mesopneumoniumによってたがいにつながっている.この膜は上部が厚くて,ここは肺根によって充たされている.また下部は結合組織だけが充たしていて,縦隔肺ヒダPlica mediastinopulmonalisといい,前額方向にある三角形の板であって肺底まで伸びている(図208, 209).このひだの鋭い下縁はすでに述べたように肺底まで達しており,したがって胸膜の横隔部と接している.このひだは胸郭を開いて肺の下葉をもち上げると容易に見ることができるし,また到達することもできる.

 胸膜腔には少量の漿液,すなわち胸膜液Liquor pleuraeがはいっているだけであって,壁側胸膜と肺胸膜のたがいに滑り動く面をなめらかにしている.

 胸膜は漿膜の一般的な性質をもっている.すなわち弾性線維に富む結合組織の基礎と薄い基礎膜,ならびに多角形をした1層の扁平上皮の被いからなっている.肺胸膜はそのほかの部分よりも弾性線維が豊富である.肋骨に接している部分はもっとも厚くて,肋骨や内肋間筋から容易にひきはがすことができる.心膜と横隔膜のところでは胸膜はいっそう薄くて,下の層とも比較的しっかりとつながっている.しかし最も薄くて,最も固く着いているのは肺の表面である.

 肺の鋭い縁のところでは胸膜が多数の絨毛に似た大小の突起をなしていて,これを胸膜絨毛Villi pleurales, Pleurazottenという.胸膜洞にはときおり脂肪によって作られた葉状の脂肪ヒダPlicae adiposaeがある.

 胸壁から胸膜の肋椎部を取り除くと,あとに線維性の薄い膜,すなわち胸内筋膜Fascia endothoracicaが残る.この膜が薄くなって横隔膜の上面にも続いている.胸内筋膜が最もよく発達しているのは胸膜頂のところである.

 肺胸膜の血管は大部分が肺動脈からきており,少部分は(肺門の周りの部分)気管支動脈からきている(v. Hayke, Z. Anat. Entw.,112. Bd.,1942).毛細管は太くて(直径20~50µ),広い目の網を作っている.壁側胸膜の細い毛細管もやはり広い目の網を作っている.

 肺胸膜のリンパ管は気管支リンパ節に達している.下葉の少数のリンパ管は後縦隔リンパ節にも達しており,また横隔膜の下で腹腔の後壁にあるリンパ節にも達している.壁側胸膜のリンパ管は各肋間隙のところと胸横筋の上で豊富な網を作っている.しかし胸膜の縦隔部にはリンパ管はごくわずかしかない.これらのリンパ管は前後の縦隔リンパ節に達している.横隔部のリンパ管はたいてい横隔膜の下方で噴門に接して存在する上胃リンパ節(1つないし2つ以上のもの)ともつながっている.壁側胸膜の上皮にはすでに他のところにおいて述べた小口Stomata, Spaltöffnungengaがあって,リンパ管とつながっている.肺胸膜には小口はないようである.(胸膜の動静脈吻合についてはv. Hayek,1942が記載している).

S. 274

 肺胸膜の神経はKöllikerによって研究された.その分枝部には神経細胞がある.壁側胸膜の神経はいろいろな源からきている(Braeucker,1927).すなわち胸膜の肋椎部は主として肋間神経によって支配される.この神経ば縦隔部の前部にも達している.肋椎部の後部と縦隔部の後部は交感神経幹およびその縦隔枝から小枝を受けている.そのほかに縦隔部の後部には大動脈神経叢と迷走神経からの枝も来ている.一方,縦隔部の前部は横隔神経と心臓神経およびこれに近接している太い血管の周りの神経叢からの枝を受けている.

 胸膜頂には交感神経の下頚神経節,下心臓神経,第8頚神経と第1胸神経の幹および交通枝,鎖骨下動脈神経叢,横隔神経からの小枝が来ている.

縦隔Mediastinum, Mittelfell

 左右の胸膜嚢と肺は矢状面上にある隔壁,すなわぢ縦隔Mediastinumによって境されている.縦隔は胸骨から胸椎体まで達しており,いろいろな器官と脂肪組織によって完全にみたされている.この隔壁の左右の表面は胸膜の縦隔部からできている,縦隔を前部と後部とに分ける.この2つの境は左右の肺根と肺門の前部を通る前額面である.

 縦隔の前部(前縦隔)Pars ventralis mediastiniは心臓と心膜嚢,太い血管の初まりの部分(上大静脈,大動脈,肺動脈とその左右両枝),なお横隔神経の胸部,リンパ節,脂肪組織,胸腺をもっている(図223).

 縦隔の後部(後縦隔)Pars dorsalis mediastiniはもっと多くのものをもっている.すなわち気管,食道,左右の迷走神経,胸大動脈,胸大動脈神経叢,右肋間動脈の初まりの部分,大および小内臓神経,左と右の縦胸静脈,胸管,リンパ節,脂肪組織である(図224, 226).

 交感神経幹と大および小内臓神経の根はすでに後縦隔のそとにある.

2-28

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る