Rauber Kopsch Band2. 06

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II.小腸Intestinum tenue, Dundarm (図109,113134)

 小腸は胃の幽門からはじまり,すなわち第1腰椎の側面のところからおこって右の腸骨窩まで伸びており,ここで大腸に開口している.

 薄い壁をもっていて,長さおよそ2.5~4.4mの管であり,数多くのうねりをなして,主として腹腔の中部と下部とを占め(WaldeyerのいうDarmbauch,腸腹の意),大腸は弓形をえがいてこれを左右上の3方向からかこんでいる.

 小腸の管はどこも同じ太さというわけでなくて,初めは2.5~3 cmの径であるが,終りの方は2~2.5 cmに減ずる.そして小腸の大部分は空回腸Jejunoileumであって,この部は小腸間膜Mesosteniumという腹膜のひだによって後腹壁に付いている.それで空回腸を一名腸間膜小腸Intestinum tenue mesostenialeとよぶ.

 小腸に3つの部分が区別される.第1の部は十二指腸Intestinum duodenumといい,30cmの長さがあり,胃についている.そして小腸のうちでは最も太くて,その位置が最も固定している部分である.その残りがまたなかなか長いが,そのうち初めの2/5が空腸Intestinum jejunumあとの3/5が回腸Intestinum ileumであって,この2つを合せたものが腸間膜小腸,あるいは簡単に空回腸とよばれるのである.

1. 十二指腸Intestinum duodenum, Zwölffingerdarm(図99,113,114,125,159,160,164,166. )

 十二指腸は30cmの長さがあり(大沢岳太郎(大沢新撰解剖学2巻,1934)によると,日本人で十二指腸の長さは約25cmである.また鈴木文太郎(人体系統解剖学3巻上,1920)によると,硬化した死体で測ると男の乎均24. 9cm,女の平均22.7 cmであった.直径は男3.7cm,女2.7cm),幅は4~6cmで,馬蹄形の大きい弓をえがき,そのへこんだ側が膵臓の頭をいだいている(図114,164,166).十二指腸に3部が分けられる(図164,166).

 第1の部は上部Pars cranialisといい,最も短い部分で4~5cmの長さがあり,幽門ではじまって,軽く上後方かつ右方にすすみ,胆嚢の頚まで達して,ここで急に上十二指腸曲Flexura duodeni cranialisをなしてまがり下行部pars descendensに移行する.この第1の部が十二指腸のなかでは最も自由に動きうるところで,両側に腹膜の被いをもっている.この部のうしろを胆管がとおり,また肝臓への血管が通っている.

 下行部は上部の2倍の長さがあって,胆嚢の頚のところではじまり,右の腎臓の表てをその左側によつた所,および下大静脈の表てを下方にすすみ,第3あるいは第4椎の高さに達して,ここで下十二指腸曲Flexura duodeni caudalisをなして下部pars caudalisに移行する.下行部は前面のみが腹膜に被われている.下行部の前を横行結腸と横行結腸間膜が通っている.横行結腸間膜の根によって被われている部分を十二指腸の没部Pars tecta duodeniという.下行部の左側に膵臓の頭が接している.総胆管は下行部の左縁のうしろを下方にすすみ,膵管(これはある短い距離だけ総胆管と伴なってすすむ)とともにだんだんと腸壁を貫く.そのために下行部の粘膜に十二指腸縦ヒダPlica longitudinalis duodeniという縦の高まりができていて,その下端を[]十二指腸乳頭Papilla duodeni(major)といい,ここに総胆管と膵管とが共同に開口する.この乳頭は幽門から約10cm離れている.ここに開く管の終りのところがしばしばやや膨らんでいて,以前にはそれがファーテル憩室Diverticulum Vateriとよばれた.十二指腸の粘膜がつくる横走のひだの1つが,その開口のところを被うようにして横ぎつている(図114).

 全例の96%において(Keyl 1925)大十二指腸乳頭の上方2.3cmのところに副膵管の開口がある.そこは実際には乳頭といえるほどの高まりをしていないことが多いボ,小十二指腸乳頭Papilla duodeni minor(Santorini)とよ.fれる.-Keyl, R., Morph. Jahrb., 55. Bd.,1925.

 下部Pars caudalisは十二指腸のなかで最も狭いが最も長い部分であって,右から左にすすみ,また斜め上方に向かっている.そして第2腰椎の左側面に達している(ここを上行部Pars ascendensという).第1腰椎体の下縁の高さで,十二指腸空腸曲Flexura duodenojejunalisという鋭いまがりをなして,空腸に移行する.

 上腸間膜動脈のまおりを包む密な結合組織から1本の索がきて十二指腸空腸曲に達して,その位置の固定に役だっている.この索は結合組織と平滑筋(十二指腸提筋M. suspensorius duodeni)よりなっている.図113.

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[図113]腺腹Drüsenbauch(腹腔の上部をいう.これに対して腹腔の中部と下部を合せたものが腸腹Darmbauchである).腹腔内の大きい腺を示す.胃(上方に飜えしてある)と十二指腸,ならびに太い血管の幹と左右の腎臓.(3/5)

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[図114]十二指腸と膵臓(9/10) 十二指腸の前壁は一部とり除いてある.肝臓と膵臓の導管が前方から見えるように膵臓の一部を切りとってある.

[図115]空腸 アルコールを内部に詰めて腸を固め,ついでその壁を切り開いたもの.ケルクリング襞がみえる.

[図116]回腸 アルコールを内部に詰めて腸を固め,ついでその壁を切り開いたもの.孤立リンパ小節がみえる.

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 十二指腸の血管は上下の膵十二指腸動脈Aa. pancreatico-duodenales cranialis et caudalis よりくる.リンパ管は膵頭の前方と後方にあるリンパ節にいたり,そこから腹腔リンパ節にゆく.

 局所解剖:1. 全身に対する位置関係としては十二指腸は中腹部Regio abdominis mediaの脇部Pars umbilicalisにあり,一部は上腹部Regio abdominis cranialisの内側部Pars medialisにある(第1巻図149を参照せよ).II. 骨格に対する位置関係:十二指腸は第12胸椎体の高さから第3腰椎体の高さに及んでいる.そのさい下行部は椎体の右側面に接しており,下部は斜め上方に向い第3および第2腰椎体の前をこえて左方へすすむ.そして十二指腸空腸曲は第1腰椎体の下縁の左側に接している.III. 近くの諸器官との位置関係:十二指腸は肝臓・胆嚢・右の腎臓と腎上体に接触しており,膵臓の頭を抱きこんでいる.また下大静脈と腹大動脈の前を通り,また十二指腸じしんが上腸間膜動静脈と交叉する.上部のうしろに門脈・総胆管・胃十二指腸動脈がある.下行部の表てを横行結腸間膜の根が横にとおる.なお下部の表てを小腸間膜根が上腸間膜動静脈とともに通っている.

 生体においては十二指腸は他のものによって動かされる性質が著しい.体の姿勢により,呼吸により,また腹筋群のはたらきによって,十二指腸は2つの椎体の高さにわたって上方ないし下方に移動する.(70頁の胃の項を参照せよ.)高齢では十二指腸が第4あるいは第5腰椎の高さまで,ときには岬角まで下ることをVogtが69才から85才までの人でしらべて,その証拠をみたのである.Vogt, Verh. anat. Ges.,1920,1921.-Pernkopf, E., Z. Anat, Entw.,97. Bd.,1932.

[図117]胃と十二指腸と空腸 レントゲン像背腹方面の照射.ケルクリソグヒダがはなはだ明瞭にみえる.(C. ElzeとG. Ganterによる)

2. 空腸と回腸Jejunum et Ileum, Leerdarm und Krummdarm(図109,115117,160. )

 空回腸すなわち腸間膜小腸は十二指腸空腸曲ではじまり,回盲結腸口Ostium iliocaecocolicumで終る.そして腸間膜縁Gekröserandと自由縁freier Randとをもっている.

 空腸ははっきりした境なく回腸に移行する.しかし全体としてみると,空腸と回腸のあいだには一連の差異がある.その違いはつぎのようである.

1. 太さのちがい(空腸の方が太い)

2. 壁の厚さの差異(空腸の方が壁が厚い)

3. 脈管の豊富さのちがい(空腸の方が脈管にいっそう富み,いっそう赤くみえる)

4. ひだの豊富さのちがい(空腸の方がひだが多い)

5. 腸絨毛をもつことのちがい(空腸の方が絨毛が多いし,その形状も異なる)

6. リンパ小節をもつことのちがい(回腸には縦の方向につぎつぎと列んで集合リンパ小節があり,これは空腸に向かってだんだんと小さくなり,終には全くなくなる)

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7. 内容のちがい(死体で空腸は多くのばあい空つぼである)

8. 卵黄腸管Ductus vitellointestinalisおよび卵黄嚢Nabelbläschenとの関係が異なる(回腸において回盲結腸口より0.5ないし1m上方に時として[多く見積つて全例の2%に]胎児の時代の卵黄腸管ないし卵黄嚢の残りがメッケル回腸憩室Diverticulum ilei verum[Meckeli]としてみいだされる)

9. 位置のちがい(空腸は中腹部の騰部と左外側部にあり,回腸は主として中腹部の右外側部と下腹部および小骨盤腔のなかにある)

10. 長さのちがい(空腸2/5:回腸3/5)

小腸壁の各層(図113~134)

 小腸の壁は漿膜・筋層・粘膜下組織・粘膜より成る.

1. 漿膜Tunica serosa(図126).腹膜の項を参照のこと.

2. 筋層Tunica muscularis.外方の縦走線維層Stratum longitudinaleと内方の輪走線維層Stratum circulareとがある(図125,126).前者は薄い層で,後者はかなり厚い.ともに平滑筋細胞でできている.

 両方の筋層は細匹・筋線維束によって所々でたがいにつながっている.この細い筋束はそれだけで独立に走っていることも,穿通する血管に伴なっていることもある.(Landau, Zeitschr. mikr.-anat. Forsch.,14. Bd.,1928. )一筋層の収縮によって腸の特有な虫様の運動すなわち蠕動Peristalüsche Bewegungがおこり,そのために内容が肛門の方へと運ぼれる.

3. 粘膜下組織Tela submucosa(図126).これはかなり厚い1層で,疎な性質であって,粘膜とはわりあい固く結合している.他の個所でも同じであるが,この粘膜下組織には粘膜にいたる比較的太い脈管や神経がふくまれている.

4. 粘膜Tunica mucosa(図125,126).その自由面はけばだってビロード様の観を呈することが著しい.これははなはだ多数の小さい指状の高まり,すなわち腸絨毛Villi intestinales, Darinzottenがあるためである.粘膜下組織に対して粘膜は粘膜筋板Lamina muscularis mucosaeによって境されている.この粘膜筋板はBaecker(Z. mikr.-anat. Forch., 34. Bd. )によると内輪と外縦の2層からなるのである.

 さらに細かい構造を述べると,粘膜は円柱上皮と固有層と多数の腺とからできている.固有層は繊細な性質の疎性結合組織で,ここにリンパ球がいろいろな量でふくまれている.

 上皮は単層円柱のものであって,補充細胞をもっている(図119).上皮細胞の一部のものは杯細胞である.円柱細胞はその自由表面によく発達した小皮性の部分をもっている.これがいわゆる小棒縁Stäbchensaumであって,近年の研究によると,ここには微細な骨ぐみがあって,それを横に貫く細い管がたくさんある(小棒構造Stäbchenstruktur).この管を通って上皮細胞の細かい原形質突起が伸びてでたり,ふたたびひつこめられたりする.

[図118]腸壁のリンパ管(青く塗つてある) 小ウシの小腸を縦断したもの×27(Teichmannによる)

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[図119]ヒトの回腸の円柱上皮×900

[図120]人のブルソネル腺の単純性および顆粒性細胞(Oppel,による)

[図121]ヒトの十二指腸のリーベルキュン腺の底部のパネート細胞(K. W. Zimmermann)

[図122]ヒトの十二指腸のリーベルキュン腺の基底顆粒細胞(M. Clara作製)

[図123]空腸の粘膜を表面に平行して切ったものバネート細胞をもつリーベルキュン腺の横断がみえている.

[図124]大腸の粘膜を表面に平行して切ったもの1つの小さい孤立リンパ小節がリーベルキュン腺によってとりかこまれている.

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[図125]ヒトの十二指腸上部の縦断

[図126]ヒトの空腸の縦断 同時に1個のケルクリング襞が横断されている.

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 絨毛(図118,125127)は粘膜のつくる突起であるから,粘膜じしんと構造を等しくするのであるが,それでも絨毛には特別に述べるべき2,3のことがある.その数はおよそ400万に達する.これは腸管内の栄養物質のなかにつかつていて,摂り入れるべきものを摂り入れる.おのおのの絨毛が1つの中心乳ビ腔zentraler Chylusraum od. Zottensinusをもっている.これは腸粘膜の乳ビ管が棍棒状に広がって,その内面が内皮によって被われているのである(図118,127).大きい絨毛では2つ以上の中心乳ビ腔がある.またこの乳ビ腔と上皮とのあいだに絨毛の血管が広く分布している(図127,128).ここに分布する血管の量ははなはだ多いのである.

[図127]回腸の絨毛 中心乳ビ腔は青,血管は黒くしてある.(Teichmannによる)

[図128]ヒトの空腸の上部における三角形の花弁状を呈する1個の絨毛内の血管×120.黒は動脈,灰色は血液を他にみちびく静脈.(Spanner, Morph. Jahrb., 69. Bd.,1932)

 絨毛の血管に血液がいっぱいに充ちると絨毛が勃起する.その反対のはたらきをする装置,すなわち絨毛を周期的に縮めるものは絨毛の結合組織のなかをその長軸の方向に貫いている平滑筋束のこぎれいな網状の集りである.この平滑筋網は粘膜筋板からきているのであって,それとつづいている.絨毛内の筋肉にはもちろん神経がきている.また結合組織の隙間にリンパ球があって,その他にリンパ球は上皮のなかにもあり(図119),また上皮の自由表面にもリンパ球が認められる.

 リンパ球は遊走して上皮を貫いて,その自由表面にでる.このことはすでにPh. Stöhrが記載し,その後にWolf-Heideggerによって確かめられたのである(Z. mikr.-anat. Forsch., 45. Bd.,1938).

 絨毛のはたらきはかなり古くから次のように考えられている.血液の流れが絨毛を勃起させる.そうすると絨毛の結合組織はひっぱられる.そのために中心乳ビ腔は広がって,その間に上皮がはたらいて吸収した乳ビに対して,この広がった腔所が吸いこむように作用する.かくして中心乳ビ腔が次第に充たされる.ついで絨毛の平滑筋線維が収縮して中心乳ビ腔の内容物が粘膜下組織のリンパ管叢に向かって圧しだされる.それからふたたび絨毛が1血流のために勃起して,上に述べたことが新たにくりかえされる.中心乳ビ腔から圧しだされた内容物が逆流しないために弁がそなわっている.しかしGraf Spee(Arch. Anat. Phys.1885)による中心乳ビ腔は絨毛が短縮したときに広くなり,勃起したときに狭くなるというのであって,この点が上に述べたのと逆になっている.

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 絨毛の形は小腸の各部を通じて必ずしも同様でない.十二指腸上部では幅のひろい絨毛が存在する.それにつづく所では同じ十二指腸のなかでも絨毛が葉状といえる形になり,ついで幅が次第に減じて長さが増す.空腸では舌状というような形であり,終りに回腸では糸状となる.

 M. Heidenehain(Anat. Anz., 40. Bd.,1911)によるとネコの空腸では1 cm2に4500の絨毛があって,そのうち1/3は単純でなく,2つ以上の絨毛が合わさった形のものである.1 cm2の腸表面がもつ上皮の吸収面積は絨毛の存在のために5.6 cm2に拡大している.1つの指状の絨毛1:皮がおよそ2800の細胞をもっている.そうすると1 cm2の腸表面が約2000万の上皮細胞をもつことになる.

 絨毛の高さは0.2~1.2mmの間である.絨毛は十二指腸で最も密に生えており(1 cm2に22~40)回腸ではその数がだんだんと減ずる(30~18,なおこれ以下にもなる).

 おのおのの絨毛は1本(あるいは2本以上)の動脈をもっていて(図127,128),これが途中で枝分れせずに絨毛の尖端にすすみ,ここで2本の枝に分れる.そのうちの1本だけが上皮の下にある密な毛細管の網に移行し,他の1本はこの毛細管網と結合せずに導出する静脈に直接に移行している.すなわち動静脈吻合arterio-venöse Anastomoseが存在する(SPANNI;R, Morph. Jahrb., 69. Bd.,1932).

 なお粘膜には大きい横のひだが永続的に存在している.これがケルクリング襞Kerkringsche Faltenすなわち輪状ヒダPlicae circularesであって(図115),粘膜の全周の1/2から2/3に及んで伸びており,小腸の上半でははなはだ密に上下にならんでいる.

 このヒダの最も大きいのはおよそ5cmの長さがある.大小いろいろのヒダがかわりがわりにならんでいる.そのなかには叉状に分れているのがあり,たいていのものは中央部が最も高い.筋層はこのヒダのなかに入りこまない.絨毛と同じく,このヒダの存在は表面積を著しく広くする.そして同時に腸の内容物があまりに速く通過しないようにするのである.十二指腸の初まりの所にはひだぶない.ヒダは幽門から3~5cmの所ではじまる.そして十ニ指腸縦ヒダの下方で急に最高の発達となる.空腸の中央のあたりからは輪状ヒダが小さく,また数が少なくなりはじめる.回腸の中央に向かってこのひだがますます不定で不規則となり,しばしぼ斜めに走っており,終にはなくなる.回腸の終りの部分をつよくひつばってみると,そのとぎまで存在していた丈けの低いひだが完全に消えてしまうことがまれでない.

 絨毛とヒダのほかに粘膜はなお次に述べるような腺をもっている:

1と2. 肝臓膵臓

3. ブルンネル腺Brunnersche Drüsenすなわち十二指腸腺Glandulae duodenales(図125).これは幽門から8~10cmの範囲にある.十二指腸の下方部ではわずかに散在する程度である.

 これは複合胞状管状腺であって,その腺体は主として粘膜下層にある(図125).しかしその少なからぬ部分が固有層のなかでリーベルキュン腺のそばにあることもしばしばである.ブルンネル腺の終末部すなわち腺体は円柱状あるいはピラミッド形の腺細胞より成り,この細胞は明るい基質とそのなかに散らばる顆粒をもっている.核は卵円形で細胞の基底部にある.

 Stöhrと Oppelはその導管および終末部の上皮のなかに,後に述べるパネート細胞と構造が一致するところの著しく顆粒性の細胞をみている(図120).ブルンネル腺はペプンンおよび一種の澱粉分解酵素を分泌する.

4. 腸腺Glandulae intestinalesすなわちリーベルキュン腺Lieberkühnsche Drüsen.これは小腸にも大腸にも,その粘膜のあらゆる部分にわたって多量に存在している(図123~126,129,130. ).

 これは腸の内面に対してだいたい垂直にのびている細い管状の腺であって,その腺底が叉状に分れていることは少ない.その長さは0.3~0.4mmであって,繊細な基礎膜と円柱状の細胞とからできている.腸液Darmsaftを分泌するものである.しばしば1つの絨毛の根もとが冠状にならんだ腸腺の開口によってとりまかれている.小腸の全体にわたってリーベルキュン腺の腺底にパネート細胞Panethsche Zellenという一種特別な顆粒性の細胞がみられる(図121,123).その顆粒はでき初めには小さいが,だんだん大きくなって,腺腔にでてゆき,そこで完全に溶ける.それは漿液性の唾液腺におけると同じ関係である(42頁を参昭のこと).

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 おそらく特殊な分泌物がこの細胞によってつくられるのではあろうが,その分泌物が何ものであるかはまだよく分かっていない.(Hintzsche, E, und Anderegg, P., Z. mikr. . anat. Forsch., 43. Bd.,1938)

 いま一種べつの顆粒性の細胞が基底顆粒細胞basalgekörnte Zellenである(図122).これはリーベルキュン腺の上皮のなかにあり,また腸の表面の上皮のなかにも存在する.その顆粒はひじょうに細かくて,主として細胞の基底部にあるが,時としてまた顆粒が核(多くは球形を呈する)の側方および上方にあることがあり,いっそうまれには細胞の全体をみたしていることがある.

5. 杯細胞Becherzellen(図119)単細胞腺であって,他の腸上皮細胞のあいだに所々にみられて,全体としてはなはだ広汎な分布を示し,絨毛の上皮にも数多く存在する.その分泌物は粘液である.

6. 孤立リンパ小節Lymphonoduli solitarii, solitäre Lormphknötchen(図116,124,129).これはすでに食道と胃でもみられたものであるが,小腸と大腸の全域にわたって散在している.黍粒ほどの大きさで,円みをおびて軽く高まつたもので,白くて軟い.そしてケルクリング襞の上にもある.しかし回腸では空腸よりもいっそう数多く認められる.1つの絨毛が孤立リンパ小節の上に立っているのもそこここにみられる.リーベルキュン腺が孤立リンパ小節のまわりをぐるりとかこんでいる.またこの小節が膨大してエンドウ豆の大きさに達していることがある.Hellmann(1921)によれば孤立リンパ小節の数は15000に及ぶのである.

[図129]回腸粘膜の垂直断 ×30 1,1孤立リンパ小節.2, 2腸腺.3, 3腸絨毛.

[図130]小腸粘膜の表面像×30

7. 集合リンパ小節Lymphonoduli aggregati,すなわちパイエル板Peyersche Drüsenhaufen(図131,132).回腸に存在する長めの板状のもので,長さは2~10cm,幅は1~3cmあり,その長軸は腸のそれと一致し,小腸間膜の付着部に向いあって位置する.時として空腸の範囲にまで多少とも遠く入りこんでおり,すでに十二指腸でみられることさえある.多くのばあい20~30個のパイエル板がある.回腸の終りのところで最も数が多く,そして最も大きい.これは多数の孤立リンパ小節が集まって,平面的に配列しているものである.このリンパ小節群の上を被っている粘膜の表面に,絨毛は少しだけあるか,または全く欠けている.しかし粘膜がそこで軽いヘヒみをなしていることもしばしばであって,そのために小窩ができている.このリンパ小節のすぐまわりに接して乳ビ管の枝分れしたものが豊富な,そして内腔の広い通路をつくっている.それからでる細い突出部がリンパ小節じしんと密接なつながりを示しており.リンパ球のできる場所であるパイエル板で新しく生じたリンパ球が,この通路をへてリンパ管に入るのである.

 Stöhrによれば新しく生じたリソパ球の一部は上皮を貫いて腸内の腔所にでてゆく.HellmannとStenqvistはこの説に反対している(Anat. Anz., 78. Bd.,1934)

 小腸の血管.上腸間膜動脈の多数の枝が腸壁に達して,腸のまわりをとりまいてひろがり,無数の小枝に分れて,これらの小枝がたがいに豊富な結合をしている.

小枝の一部は漿膜じしんのなかでさらに枝分れして終る.

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しかし他の小枝は筋層を貫く.そのさい(Wolf-Heidegger 1942によると).血管の走るぐあいと結合組織の関係との両方で圧力に対して安全なようにできている.そして筋層に分布する諸枝を出した後に,粘膜下組織において平面的にひろがったよく発達した血管網をなす.この粘膜下の網から粘膜じしんに分布する血管がおこる.これはまず粘膜筋板を貫いて,ついで腸腺の底に接してまた平面的にひろがった網をつくっている.この網からリーベルキュン腺や絨毛やパイエル板への動脈がでるのである.筋層内の細い毛細血管は,縦走線維層と輪走線維層とのそれぞれの走り方にしたがった,長い網の目をもった2つの層に分れている.リンパ小節はその縁のところに毛細血管の網をもっていて,これから少数の管が内部に入るが,その中心部までいつも達するとは限らない.

[図131]集合リンパ小節(パイエル板)

 回腸の中央部にて. ×1 このパイエル板において個々のリンパ小節がかなりはっきりと相互のあいだで分れている.幾本かのリンパ管がパイエル板とつながっている.孤立リンパ小節が近くに散在しているが,あまり目だたない.

[図132]集合リンパ小節の一部をその表面に平行した断面でみる 血管に注入してある.×50

[図133]腸筋神経叢(アウエルバツハ神経叢) 新生児の小腸から得たもの.

[図134]モルモツトのアウエルバツハ神経叢の1つの神経節内の細胞を示す.

 aは軸索突起,bは樹状突起で,その一部は交感性の神経細胞をかこんでいる.cは色素顆粒をもつ交感性の神経細胞であるが,メチレンブラウで染つていない.dは神経節相互のあいだを連ねる神経線維束Bのもつ神経線維(A. S. Dogiel,1895)

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 リンパ管は粘膜と筋層とに存在する.粘膜にあるのは乳ビ管で,筋層のものはふつうのリンパ管である.絨毛の中軸部にある単一あるいは2つ以上の中心乳ビ腔zentrale Chylusräume od: Zottensinusについてはすでに述べた. 他の毛細リンパ管はリーベルキュン腺のあいだを下行する.これは中心乳ビ腔のつづきと合して固有層内で腸腺のすぐ下の所で網を形成しており,この網が多数の吻合によって粘膜下組織内のよく発達したリンパ管網とつジいている(図118).この網からでてゆくリンパ管が筋層を貫くが,そのさい筋層の内外両層のあいだにある特別なリンパ管網(interlamindrer Lymphplexus von Auerbach,アウエルパッハの筋板間リンパ管網)をうけ入れるので,つまり筋層からのリンパがすべてこ,で集められるのである.筋層を貫いてでた腸壁のリンパ管はすなわち漿膜下リンパ管subseröse Lymphgefäßeであって,これはなお腸の縦軸の方向に沿ってある距離だけ走ることが多く,ついで小腸間膜の両葉のあいだに入り,そこで小腸間膜リンパ管mesosteniale Lymphgefäßeとなる.

 小腸の神経は主として上腸間膜動脈神経叢からくる.この神経叢は交感神経の腹腔神経叢と迷走神経の枝とからでる神経によってつくられている.そして上腸間膜動脈の諸枝に伴って腸壁に達すると,主として無髄線維より成るその神経は漿膜下の網をつくり,ついで縦走筋層を貫いて,これと輪走筋層のあいだに筋板間の神経叢interlaminärer Nervenplexusを形成する.これは腸筋神経叢Plexus myentericusまたは アウエルバツハ神経叢Auerbachscher Nervenplexusとよばれ,多極性の細胞のあつまつた多数の神経節をもっている(図133).これからおこる細い神経が輪走筋層を貫いて粘膜下組織に達して,ここで粘膜下神経叢Plexus submucosusすなわちマイスネル神経叢Meißnerscher Nervenplexusをなしている.この神経叢は網の目がせまくて,神経細胞の集団がアウエルバッハ神経叢にくらべて小さい.これからでる線維束が粘膜筋板や絨毛内の平滑筋に分布し,その他の粘膜の部分にも終るのであって,その終るぐあいは胃(78頁)で述べたのと同じようにPh. Stöhr jr. のいう“神経性の終末細網”nervöses Terminalretikulumの形である.構築的にみた腸壁の構造についてはGoerttlerの研究がある(Morph. Jhrb.,1932).

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最終更新日 13/02/03

 

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